イジワル上司と秘密恋愛

「あ……っ、綾部さ……ん」

綾部さんは私の耳朶を食みながら言葉を続けた。

「志乃が怪我したのを知ったときは心臓が止まるかと思った。本気で怒りが沸いて麻里絵を問い詰めたけど、結局彼女の仕業だと認めさせることすら出来なくて……自分が不甲斐なくて仕方なかった」

そのまま優しく身体を押し倒すと、今度はチュッと軽く唇にキスをしてから僅かに微笑んだ。

「けど、どんなことがあってもくじけない志乃を見てたら、俺も励まされたよ。酷い嫌がらせにも屈せず頑張り続ける姿を見て、志乃はすごく成長したんだなって」

「へへ……嬉しい。私、一人前になった姿、綾部さんに見せたかったから」

「俺はそんな志乃を見て……すごく好きだって改めて思ったんだ」


——長い時間の努力が、苦しかった日々が、やっと全て報われていく。


誤解から始まってすれ違ったまま終わった恋。

間違いに気付いて、反省して、もがいて、追いかけて……そしてもう一度すれ違って。

馬鹿だった。最初から綾部さんのことだけを信じていれば良かったのに、噂や他人の言葉に惑わされて。

けれど——もう間違えない。綾部さんの想いを知って、彼の愛を信じて生きていける。
 
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