イジワル上司と秘密恋愛

「あっ……綾部さ、ん……」

首筋に口付けられた唇が、ちゅっと痕を残しながら綴られていく。

「志乃、愛してる。ずっとずっと好きだった。もう二度と離さないから」

「綾部さん……、私も」

ずっと告げたかった言葉。遠回りしてやっと届けられる、素直な気持ち。


「好き……大好き。誰よりも愛してる」


「志乃……」

唇を離し私の瞳をじっと見つめた綾部さんが、幸せそうに目を細めて笑う。

「やっと捕まえた。志乃の本当の気持ち」

そう言って大きな手で頬を撫でると、綾部さんはいつの日か私に教えてくれた甘いキスの仕方で唇をふさいだ。



静寂の廃墟は、ふたりで抱き合えば優しい闇で包んでくれる帳でしかなかった。

すれちがい続けた想いが、今やっと結ばれて——

——私はこの夜、本当に好きな人に抱かれる幸せを知った気がした。

 

< 224 / 239 >

この作品をシェア

pagetop