イジワル上司と秘密恋愛

「綾部さん……」

「おまたせ」

そう言いながらも綾部さんの視線はこちらではなく、私から取り上げたスマホの画面をじっと読んでいる。

「『木下くん』ね。さっそく来週末デートの約束か」

「か、返してください!」

慌てて取り返そうとしたけれど、すでに内容を把握した綾部さんはなんの抵抗もせず私の手にスマホをあっさりと返した。

そして、カウンターから出されたミントジュレップをひとくち飲んでから前を向いたまま喋る。

「志乃。俺はお前の意地っ張りなとこ好きだけどさ、さすがにこれは可愛くないな」

「……あ……」

初めて、綾部さんが私を否定する言葉を口にした。

仕事でも、こんな関係になってからも、彼は私に対して否定的な言葉を使ったことがなかった。

それは私が特別というよりは、彼は滅多なことでもなければ他人を否定する言動をしない性格なんだけれど。

そんな綾部さんが……私に『可愛くない』と言った。

 
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