イジワル上司と秘密恋愛
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旅館に戻ると、綾部さんは時計を確認してから少しトーンを落とした声で話し掛けてきた。
「まだ晩飯までは時間あるな。志乃、先に風呂入ろう」
今日は何もかもが嬉しくて、彼の誘いにも素直に頷いてしまう。
そんな私を子ども扱いするように、綾部さんはおどけたように頭をポンポンと撫でた。
けれどそれさえも嬉しくて、私は頬を赤らめながらはにかんだように笑うと、さっそくお風呂に入る準備を始めた。
部屋には小さな露天風呂が付いている。こぢんまりとした檜風呂は遠目に山の景色が臨めてとても情緒的。
部屋の脱衣場で服を脱いでから浴場の戸を開けると、先に入った綾部さんは既に湯に浸かっていた。
「早く来な。気持ちいいよ」
浴槽の縁に腕を掛けもたれかかり、綾部さんは気持ち良さそうに空を仰いで目を細める。
まだ明るい空の下で見る彼の素肌は、なんだかいつもと違って見えて、またしても気持ちが高揚してしまう。
私は掛け湯をして身体を綺麗にしてから檜の浴槽に向かい、ゆっくりと湯船の中に身を沈めていった。