エンディングは”そこ”じゃない……

精悍な顔立ちをした年齢が30歳前後の男性が心配そうに私の顔を窺い見ている。

制服ではなく喪服を着ているところを見るとセレモニーホールの職員ではなく、

この人も告別式に参列していたらしいと分かった。

彼の話によるとたまたま隣に立っていた私が彼の腕を掴んで倒れ掛かったのを受け止めてこの控室に連れて来てくれたらしい。

『見知らぬ女に突然腕を掴まれ騒ぎに巻き込まれるのは甚だ迷惑な話ですね』

居た堪れない思いでいたら彼が唐突に口にしたのは思いも寄らない言葉。

「故人とはとても親しい間柄だったのですか?」

何故そんな事を言われたのか不思議で首を傾げて直ぐに返事が出来ないでいると

男性はハンカチを私の手に押し付けてから

「あの……気を失っている間もずっと涙を流されてましたから」そう言ったのだ。

「えっ?」

慌てて両方の手のひらで顔を覆えば確かにしどと濡れた感触があって呆然としてしまった。

「もしかして無意識だったの?」

『そうです。

教えて貰えるまで涙でグチョグチョの顔を赤の他人に晒しているのも

知りませんでしたよ』

心の中だけでそう返事をして無難に返事を返した。

「今日は母の名代で葬儀に参列しました。

故人と親しかったのは母で私は数回しかお目に掛かったことはありません。

本当に失礼なことですが”これ”は故人とは関係なくて……」

もう後半はしどろもどろになりながら言い訳している自分が情けない。



< 3 / 25 >

この作品をシェア

pagetop