もう一度君を  この腕に
「酒井。」

「はい。」

僕は呼ばれて力なく返事をした。

専務だった。

「なんだ、元気ないな。」

話しやすい専務なら聞いても変に思われないだろうか。

「専務、もし意中の女性がいたらどう声をかけたら上手くいくんでしょうか?」

「酒井よ、悩むな。」

「でもですね。」

「いいか、まず第一に自分の気持ちを隠さない。」

「はぁ。」

「第二にガッつかない。」

「はぁ。」

「第三に常に明るく振る舞う、だな。」

「そう言われてもピンとこないです。」

「要はフィーリングなんだよ。」

「フィーリングですか?」

「そう。私はあなたを求めてます、みたいな具体的な表現はやめた方がいいな。特に酒井は考えすぎる傾向がある。」

「ではどうすればいいんでしょうか?」

「簡単だよ。シンプルなデートを数回重ねてお互いを理解し合えたらGOだな。」

「デートですか。」

「ところで意中の彼女はどこだね?」

僕はリビングにいる木村に目を向けた。

「はは~ん。社長はダメだよ。私のこれ、だからね。」

「ち、違います。」

「で、話したのか?」

「いいえ。彼女はたぶん今一番悲しんでいる時なんです。」

「なぜ?」

「彼氏と離ればなれになってです。」

「チャンス到来だ。」

「そうはいきません。僕はそういう風には思えなくて。」

「だから考えすぎるんだよ。」

「そうでしょうか?」

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