恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


俊平に共感を求められても、友人たちに彼の気持ちは理解できなかった。

彼らは何も言わなかったが、俊平の話を聞いて思うことはひとつ。

“婚約者が可哀想だ”

付き合いの長い友人とはいえ、身勝手な俊平に怒りさえ覚える。

しかし、客観的に自分を見つめる能力がすっかり欠如している俊平は、友人たちのそんな気持ちに気付かず、あくまで自分が被害者のように語る。


「……だから、“ちょっと距離を置こう”つって家出て、しばらくホテル生活してたんだ。そしたら偶然、この春卒業した生徒に会ってさ……そいつが言うんだ。“どうしたの? なんか、疲れてるみたい――”って、心配そうに」


俊平の言う“卒業した生徒”というのは、在学中俊平に思いを寄せていた、香坂仁奈である。

大学生になった彼女と街で偶然会い、夏耶によく似た表情で優しくされると、俊平はどろどろとした気持ちが、彼女に向いていくのを感じた。

そして、あっさり救いを求めたのだ。
夏耶によく似た、白く柔らかな身体に。



泊まっていたホテルに仁奈を連れ込んだ俊平は、荒々しく彼女をベッドに押し倒し、乱暴に服を剥いだ。


『……みっちゃん、わたし、卒業してからもずっとね……』

『めんどくせーこと言うなよ。……あと、“しゅんぺー”――な』


その呼び方を強要されるのは二度目だ。仁奈はそのとき初めて、自分が誰かの代わりにされていることがわかった。

それでも俊平が好きで、自分の想いは飲みこんだまま、彼女は身体だけを開いた。



『しゅん、ぺー……っ、や、はぁ……っ』



俊平は苛立ちをぶつけるように仁奈を抱いたが、快感の強さと反比例するように、心は冷えて行った。

やはり仁奈は仁奈で、夏耶ではない――――。

そんな当たり前のことに気付いて、けれど律儀に射精感は訪れる自分の身体を恨めしく思ったりした。

そして、むなしさだけが残る行為の後、俊平は仁奈をあっさりと捨てたのだった。



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