恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


自分の想いは、どうしてもここに戻ってきてしまう。

夏耶に恋焦がれ、けれどうまく立ち振る舞えず、すれ違った高校時代を悔やむように。

結局、狂ったように琴子に執着していたのも、仁奈の純粋な想いを踏みにじり、利用してしまったのも、夏耶への想いが昇華できていない証拠。

卒業してから今まで、一番幸せだった瞬間はいつだと聞かれたら、夏耶を自分の腕に抱いたあの夜だと、即答できるくらいだ。

……しかし。


(夏耶があの弁護士の元にいる限り、俺は会うことすらできない。子供のことに関してケジメをつけようにも、これじゃ何も……)


体育館の前に座り込んだままの俊平が途方に暮れていると、ポケットの中でふいに携帯が音を立てる。

誰かと話すような気分ではなかったが、とりあえずポケットから取り出し、画面を確認した俊平は、思わずそこから目を背けてしまう。


【着信 琴子】


彼女の方も、ケジメをつけなければならないのはわかっている。

すでに式場に何度か足を運び、結婚式の日取りだって決まっているのだ。

けれど、今の気持ちでは……琴子とこのまま結婚するなんて、とても考えられない。

一体自分はいつ、それを本人に伝える気なんだろう。

いつまで琴子を裏切ったまま、彼女を自分に縛りつけておくのだろう。

……今が、ケジメをつけるときなのでないのか。


「はい」


俊平は意を決して、琴子からの電話に出た。

何を言われても、正直な思いを打ち明けて、宙に浮いたままの自分たちの関係を終わらせよう。

たとえ琴子が泣いてすがっても、ほだされてはいけない。

一瞬の情に流されて彼女の元に戻ったところで、結局は彼女を不幸にしてしまうのだから。

――そう、自分に言い聞かせて。



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