恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
(なんで私、ホッとしてるの……? まさか……そんなわけ……)
夏耶が自問自答していると、コンコン、と病室のドアがノックされた。
我に返った彼女が「はい」と短く返事をすると、ゆっくり開いたドアから顔を出したのは、今まさに噂をしていた人物だった。
「沢野……」
桐人はそれだけ言うと、一直線に夏耶のもとに向かってきた。
彼がどれだけ夏耶を心配していたのか。それが伝わってくるような、焦った表情をしていた。
「先生……」
「どこも、なんともないか? 怪我は? お腹の子は?」
夏耶の説明を待たず、まくしたてるように言った桐人に、夏耶は少し驚きつつ、けれどあたたかい気持ちで胸がいっぱいになる。
(先生、そんなに心配してくれてたんだ……)
少し涙ぐみそうになったのを堪えて、夏耶はふわりと柔らかく笑った。
「平気です。……信じてましたから。先生なら依頼人を裏切ることなく、私を助けてくれるって」
「沢野……」
そして二人が静かに見つめ合っていると、ノックもなしに再び病室の扉が開いた。
「相良さん、病院の廊下は走っちゃダメですって、俺が看護師さんに怒られたんですけど……!」
不平を洩らしながら部屋に入ってきたのは豪太だ。
彼はベッドに夏耶の姿を見つけるとパッと表情を明るくして、駆け寄ってきた。
「沢野さん! よかったです、無事で……!」
「豪太くん……」