恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
17.Traffic jam


それからの夏耶は平穏な日常を過ごしていたが、俊平と会うことはなかなか叶わなかった。

律子を通して何度か頼み込んだものの、毎回断られてしまうのだ。

自分のことも、子供のことも、俊平にとってはきっと取るに足らない存在なのだ。

そんな意識が強まってやりきれなく思うこともあったが、そんな中でも彼女が強くいられたのは、桐人のおかげだった。

あの裁判の日、病室で夏耶が彼のキスを拒んでからも、桐人は変わらぬ優しさで彼女と接し、時間を見つけては彼女に桐人流の弁護を叩き込んだ。

彼との時間を重ねる度、夏耶は心の底から桐人を想うようになっていたが、彼女の中で恋愛の優先順位が低いことは今でも変わらない。


二人の関係は上司と部下のままでそれ以上深まることはなく、夏が過ぎて九月になった。

夏耶の妊娠の経過は順調で、妊娠八か月にさしかかった彼女のお腹はかなり膨らんできた。

そんな彼女を気遣って、桐人も豪太も外出の用事をあまり夏耶に頼まなくなっていたが、今日の彼女は少し遠出をしていた。

――司法試験の合格発表があるからだ。

インターネットでも結果は見られるが、それでは味気ないと思った夏耶。

事務所の最寄駅から電車を乗り継いでやってきた霞ヶ関、そこにある赤レンガが特徴的な建物の前にはすでにたくさんの受験生が詰めかけていた。



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