恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜





「……あと、どれくらいですか?」

「ちょっと渋滞してますから、三十分くらいですかね」

「わかりました……できるだけ早くお願いします」


同じ頃、夏耶は大きなお腹を押さえながら、タクシーに乗っていた。

空港に向かうにはその方が速いからと最初は電車に乗っていたが、座れない状態が長引きお腹に張りを感じてきたため、途中で電車を降りタクシーに乗り換えたのだ。


(あんなにお世話になった先生と、このままお別れなんて絶対にいや――)


彼女は事務所に戻った後、すべての事情を豪太から聞かされると、いてもたってもいられなかった。

夏耶の身体を心配する豪太が引き留めるのを無視して、すぐに事務所を飛び出し、今に至る。

渋滞にはまってしまったようだが、窓の外を飛んでいる飛行機は次第に大きく見えるようになってきて、夏耶の手に汗が滲む。

人の多い空港で、彼を見つけるのは至難の業だろうけれど、彼には言いたいことがたくさんある。

まだ、諦めたりしない――。

電車での無理がたたったのか、時おり下腹部に痛みを感じていたが、夏耶は自分をごまかしながら、痛みに耐えた。

そんな中ようやく空港に着くと、豪太から聞いている国際線のターミナル、その出発ロビーを目指す。

当然、すでにすべての手続きを終えて搭乗の準備にはいっていたら、会えない。

けれど、その可能性はできるだけ考えないようにして、夏耶は広い空港内を、キョロキョロと見回しながら歩いた。

たどりついた出発ロビーの階には、いくつか待ち合わせ用に設けられたミーティングポイントがあり、そのベンチでフライトを待つ旅行者の姿も多いことから、夏耶はそこを重点的に見て回ることにした。



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