恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「彼女――琴子さんは、あなたが自分と一緒にいるのはただの義務感からだと思っています。愛情はほとんどないにも関わらず、身寄りのない自分を捨てることはできないからと」
義務感――その言葉に、思わず俊平の身体が強張った。
最初に琴子を好きになったのは、俊平だった。その恋心に、嘘はなかったと思う。
しかしその情熱も、“夏耶を忘れたい”という意識から生まれたものであったことを、今の俊平はわかっていた。
それを知ったうえで、それでも琴子には自分が必要だと思いたかった。
孤独で、病弱で、仕事もしていない、世間知らずな琴子。
俊平は彼女に必要とされていれば、夏耶のことは一生“過去のこと”だと思える気がしていた。
「だからって、弁護士に相談なんて……」
「……ごめんなさい。二人だけで話し合うことが一番いいってわかってたけど……私、“普通”とか“常識”とか、人よりわかってない部分があるから……中立な立場の人の意見が、聞いてみたくて……」
おどおどとそう話す琴子にいら立つ俊平の表情を見て、思わず桐人は口を挟んだ。
「お互いにとって正しい判断だと思いますよ。……三井さん。今回の婚約破棄は、彼女からの一方的な申し出で、あなたに非はありません。つまり、あなたは慰謝料を請求することができますが……」
「ちょっと待って下さい。まだ別れると決まったわけじゃない。慰謝料だなんて、そんな――!」
冷静さを欠いて大声を出してしまった俊平は、そこまで言うと気まずそうに咳払いをして桐人に向き直る。
「……とにかく、今日は帰って下さい。彼女と話し合いたいので……」
「そうですか……わかりました」