恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
琴子はその間、抵抗しなかった。その代わりに、こんなことを言う。
「乱暴したら、俊平の立場が不利になるよ」
「……ずいぶん色々と入れ知恵されてんだな?」
「優しい弁護士さんだから……色んなこと、教えてくれたの」
「ふーん……じゃあ付き合えばいいじゃん、あのベンゴシと」
琴子に馬乗りになった状態で俊平が言うと、無表情を装っていた彼女の瞳がかすかに揺れた。
自分の発言に、琴子が傷ついている――そう思うと、俊平は心の意地が悪い部分が満たされていくのを感じた。
(別れたいなんて口だけで、結局琴子も俺からは離れられない――)
満足げに口角を上げた彼は、彼女の手首のネクタイを外してやり、少し跡のついてしまったそこに優しく口づけた。
「……ゴメンな。でもやっぱり、俺には琴子が必要なんだ」
「俊平……」
俊平が琴子の首筋に顔を埋め、そこを吸い上げると、琴子の身体に甘い痺れが走った。
――ほだされてはいけない。琴子はそう思うも、久しぶりに与えられた慈しむような視線、手つきから愛情が伝わるような愛撫を喜んでいる自分にも気づいていた。
(今日に限って、こんなに優しくするなんて……)
いつもは“耐える”という感覚で、苦痛にも近い行為が、今日は切なく、心地いい。
衣服は丁寧に取り去られ、ゆっくり解された琴子の身体が俊平を受け入れる頃、琴子は熱に浮かされた脳で、桐人に謝っていた。
(相良さんは、親身になって相談に乗ってくれたのに……ダメだ。私。やっぱり、まだ俊平と――――)
今日、桐人という第三者を挟んだことで、確実に俊平との関係を終わらせる気でいた琴子は、自分の考えの甘さに気が付いて泣きたい気持ちだった。
重なるため息に含まれる水蒸気とぶつかる素肌の隙間で熱せられた空気は、彼らの間に横たわる歪な愛情を隠すように、冷たい窓を曇らせていた。