恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「はー……すげ」
キョロキョロと部屋を見回した俊平は、思わず感嘆の息を洩らした。
自分たちもリゾートと名のつくホテルに泊まってはいるが、所詮は学生旅行の格安プラン。
日本のシティホテルとそう変わらない部屋は、小ぎれいだが狭く、修学旅行を彷彿とさせた。
しかし今訪れている部屋ときたらどうだろう。
籐の家具で統一されたリビングダイニングはゆったりと広く、こんなところに一人で泊まっていたら逆に持て余して落ち着かなそうだという印象だ。
しかも、こんなにも広いのにベッドルームはまた別の場所にあるらしく、俊平のいる場所からでは見えない。
「……お姉さん、何者?」
目の前に海を望むバルコニーに二人で出ると、俊平は手すりにもたれて長い薄茶色の髪をなびかせる彼女に問う。
髪の色もそうだが、グアムには似つかわしくない透き通った白い肌が目に眩しい。
「……あ、名前教えてなかったっけ。琴子だよ」
「ふーん、琴子さん…………って、それだけかよ!」
「それだけって?」
「や、もっと他にも色々……歳とか、職業とかあるじゃん」
ああ!と琴子は軽く笑って、けれどその問いには答えずに俊平の瞳を覗き込む。
「そういうの、必要?」
無邪気に問いかけられて、俊平はどぎまぎしてしまった。
年上の女性とこんな風に接するのは彼にとって初めてのこと。
しかも彼の抱いていた年上の女性像とはかけ離れた琴子の“幼さ”みたいなものを逆に色っぽく感じ、つい彼女から視線を外してしまう。