恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜





「琴子、どれがいい?」

「ん……これかな。オマール海老のテルミドール。でも、俊平のご家族は、和食じゃなくて平気?」

「ああ、平気だよ。一番歳いってる母方のじーちゃんも、わりと洋食とか好きだし」

「じゃあ、これにしよ。あとは、デザートだね……」


同じ日の夜、琴子と俊平は、自宅のリビングで式場から持ち帰った数々のパンフレットを眺めていた。

二人が結婚に向けて具体的に動き出したのは、三月の終わりごろ。

同窓会の夜、“相良桐人の手先である夏耶にハメられた”と勘違いし、一度は琴子との別れも覚悟した俊平。

けれど、いくら待っても琴子からあの夜の一件を問い詰められたりすることはなく、拍子抜けした反面、少し不気味だった。

だから、“自分のような男でいいのか”という確認の意味も込めて、“そろそろ式を挙げようか”と提案してみたところ、琴子は嬉しそうに首を縦に振ったのだ。


「しかし、結婚式って金かかるのなー……誰を呼んで誰を呼ばないとか、すげー悩む」

「いいじゃない、俊平はたくさんお客さんを呼べば。私の方なんて、友だち数人と、親戚数組よ?」

「そうは言ってもさー。大学の友達は今でもよく連絡取るから当然呼ぶとして、地元の奴らとか、今何してんのかわかんないのもいるしなー……」


無意識にそう話していた俊平だったが、琴子はかすかに表情を硬くしていた。


(俊平の地元の友達……その中に、幼なじみの“カヤ”さんは、入ってる……?)


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