恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
11.Crossing collision


「中野ー、なんか食いモン買ってきて。あと煙草」

「……自分で行ってください。俺、明日は久々の法廷ですよ? いくら資料見直しても不安で不安で……」

「あ、そうだっけ。そりゃ緊張するわな。……しょうがない、じゃ留守番よろしく」


――数日後の相良法律事務所。

翌日に裁判を控えている豪太は、朝からずっと担当する事件に関する資料やデータを読み込んでいた。

夏耶は銀行にお使いに行っている最中で、桐人は重い腰を上げて自ら外に出なければならなかった。


(あーあ、暑いの苦手なんだよなー……)


五月も下旬に差し掛かり、徐々に強くなる初夏の日差しに目を細めながら、桐人はビルの外に出る。

すると、彼の行く手を阻むように、ある人物が桐人の前に立ちはだかった。

顔を上げてそれが誰だか確認すると、桐人は皮肉めいた笑みを浮かべて言う。


「あらら……ずいぶんな珍客がお出ましで……」


桐人がその男――ここへ来るために、仮病を使ってまで学校を休んだ俊平と対峙するのは、これで二度目である。

お互い相手にはあまりいい印象を抱いていないせいか、彼らをまとう空気にはかすかに緊張が走った。


「……今、カヤは事務所に?」


挨拶もなしにそう切り出したのは、俊平。

桐人は“夏耶”の名に反応し、彼女に何の用だと俊平に詰め寄りたくなったが、ポーカーフェイスを保って、静かに言う。


「いや。沢野なら今は外してます。ご用件は?」

「それは本人に言いますよ。……カヤの帰りはいつごろになりますか?」


(カヤ、カヤってうるさい男だな……今さら、何の用があって……)


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