20億光年の孤独
いつかの君へ
父さんは大学の理学部の助教授だった
僕がもの心がついたにはすでにそうだった

そして母さんのこともよく知らなかった
小さいころに母さんは家を出て行ったからだ

父さんは忙しい人だったから僕はベビーシッターに育てられたようなものだった

寂しいとは思っていた
不満もあった

でも何よりも出て行った母親が嫌いだった
女が嫌いだった

僕から見ても父さんは素敵で魅力的だと思う
若くして助教授だし見た目も
いつもはボサボサの髪によれよれの服で
さえないが
きちんと正装すれば
すらっとした長身で鋭い目

何より博学で話が面白い

それが父さん
進藤 彰 だ

だから
当時はなぜ母さんが出て行ったのか理由がわからなかった

確かに立場ある身である父さんは家庭には積極的な方ではないとおもうが
それでも
父親として最低限の責任をはたしていた
と思う



父さんの死後、僕が中学生の時
アキさんにそのことを話したことがあった

「彰さんはね、完璧すぎたのね
あの人はね、女が欲しいって思ってるもの、全部持ってるの

女はね、欲張りだからそれじゃダメなんだな

女は、満たされないことで追い求めることが好きな生き物だから
あの人のおかげで全て満たされると
女は飽きてしまうの
それで、空虚な自分に気づくのね

でも本当に空っぽなのは彰さんの方なのにね
あの人は本当は子供でありたいっておもってんだな
彰さんは自分自信で己の好奇心と冒険心にふたをして
大人でありたいと偽っているだけ

中身はそこらへんで紙飛行機とばしてるガキなんだわ」



あの時のことはよく覚えている
アキさんは何処かを懐かしむかのようだった


そして、今までアキさんが父さんに惚れて結婚までしたんだとおもっていたんだ
が、しかし

きっと、父さんがアキさんにべた惚れだったに違いないな
と確信した

そうじゃなけれ父さんは
いくらなんでも16も下の
しかも自分の教え子と結婚しようとはしない

父さんにとってアキさんはまさに自由の象徴だったんだ

父さんは40で死ぬまでアキさんに本気の恋をしていたんだ


でもね、父さん、僕は知ってるんだよ

アキさんはね
父さんが死んで7年たった今でも

アキさんは父さんに恋をしている

父さんはアキさんを幸せにしたかっただろうけど
アキさんを1番苦しめているのは
彼女から自由を奪ったのは父さんだ

アキさんは
父さんがいなくても、彼女のその思い出だけで

ますます父さんに惚れていくんだ



アキさんはずっと父さんと家族になりたがってる
そして、僕に対しても……



彼女は母親でありたいと思っている





父さん、僕はあなたが憎くて堪らない
惚れた女を苦しめるあなたに

そして
僕の恋も報われない
僕の恋も彼女を苦しめるから



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