20億光年の孤独

降り続く雨


「あー進藤くん、ちょっと待って!」

移動教室で廊下を歩いていると背後から誰かが僕を呼びつけた

「どうしたんですか?瀬戸先生、プリントなら期日守りましたよ」
「あーギリギリだったけどな、いやそうじゃなくて
君さぁ、もしかしてお母さんが宮下だったりする?」
「宮下?アキさんのことですか?」
「あーそうだよな、アイツ結婚したんだよな、なんかそんな感じしなくてな

やっぱり宮下が母親か?」
「……そうですけど、瀬戸先生は何でアキさんのこと知ってんですか?」
「あー俺、宮下と高校の同級生でさぁ、
クラスも2年間同じだったし

この間、同級会でたまたま会ったら
アイツ結婚してるし、子供いるしでほんとに驚いてよ

しかも高校生の子供って…進藤くんには悪いけど、ほらありえないだろ、アイツまだ31だぞ
しかもこの高校に通ってるとか、ほんとにびっくりだったな」

瀬戸に見下ろされた僕は
なんだか非常に苛立っていた

「……確かに僕は父の連れ子でアキさんの実の子じゃないですけど『あー悪かった、ちょっと無神経だったな、

いやさぁ、宮下ってなんか男勝りっていうか、素っ気ないっていうか、まぁそんな感じだったからよ

なんか一生、一人で生きてくって感じの女だったからよ

結婚してるって聞いてただ単純に驚いたんだよな」

瀬戸は大きく頷いていた

「…もしかして、知らないですか ?
父さんのこと」
「知らんねぇな
アイツ結婚して子供がいるっとしか言ってねぇし
俺としては気になるけどな
宮下と結婚する男って」


「僕、そろそろ行きます、授業始まるんで」





瀬戸とそんな会話をしたのは2週間ぐらい前だった

そして6月の第1週目の金曜日の夜

僕は漫画雑誌を買いに本屋に来ていた
帰りにコンビニに寄ろうとしたとき

見てしまった


アキさんと瀬戸だった



確か、アキさんは今日友達と飲みに行くって言ってたな
瀬戸のことだったのか
隠さなくてもいいだろうに


アキさんはかなり酒に弱い
にもかかわらず居酒屋の雰囲気が好きだからっていって酒を飲まないくせに
時々出かける

アキさんは結構、女友達が多いから付き合いも兼ねてるって言ってるが
多分、ただ、はしゃぎたいだけだ

でも人に迷惑がかかるからって酒はほとんど飲まない

ビール1杯で気持ちわるくなるような人なのだ

それがどういうことなんだろう
すでにアキさんは足がふらふらと覚束なく
出来上がっている

あれは無理やり飲まされたに違いない
……瀬戸……


「離して下さい」

アキさんは瀬戸の腕に捕まって歩いていた

「あれー、拓海やん
どうしたん、あっ、わかったぞ
エロ本でも買うてきたんだなー
やだわー」

アキさんは弱いだけでなく酒癖も悪い

呑気な彼女はヘラヘラとご機嫌のようだ

「瀬戸先生、今後、アキさんに酒を飲ませないでください」

瀬戸は最初こそ驚いた顔をしたが
さっきからずっと僕を睨んでいる

……この男…………


「悪かったよ、まさか宮下がここまで弱いとは思ってなくてな
いつも豪快で傲慢なヤツだから
大酒飲みを期待して誘ったんだかな、まぁ裏切られたな、こりゃ

詫びに送ってやろうって思ってたんだ」

なんだか瀬戸は
詫びる様子は全然ないようにみえる

僕は彼女の腕を引っ張る

「ここでいいです、ありがとうございました

では、学校で」


僕は急ぎ足でアキさんの手を引きながら歩いていった

瀬戸は食い入るように僕たちを見ていた

「おいまて!進藤君!
君さぁなんで教えてくれなかったんだ
お父さんのこと」

瀬戸はすでに歩き出している僕を呼び止めた

「別に、聞かれなかったからです」


瀬戸はまだ何か言いたげだったが
僕は足を早めた

これ以上話したくなかった




「ちょ、ねぇ、拓海、ねぇ
痛いなー腕もぎれるよ、これ

離してなーくれへんか?」

アキさんは無理やり僕の手を売り払おうとしている

「あのさー
どうして飲んだりしたの?いつもは断ってんじゃん、つまみ美味しいって食べてばっかのくせに」

「そんなことゆうてもなー
まさか瀬戸まで教師やっとるとは思わんかったしなー

昔話に花咲いただけなんよ

あんまり瀬戸のこと責めんといて

なっ、そんな早くあるけないんだから
もっと優しく…『うるさい!
いいから黙って家帰るんだよ

人の迷惑考えて』


アキさんはしゅんと肩をまるめた

僕は彼女の腕が赤くなっているのに
気づき

少しだけ力を緩めた
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