20億光年の孤独sideアキ

オリオン


「そういえば、キミの質問、まだ答えていなかったね」

夏も終わりに差し掛かった頃に
私は進藤先生をデートに誘った

でもその日は息子の拓海君の夏休みの宿題を手伝うために水族館に行く予定だからって
断られた

私は自分も付いてくって言い張って
今日は3人でデートだ
小学2年生の拓海君には今日始めて会う

実際、会うまで正直、進藤先生が子供を育ててるなんて信じられなかった

運動会のリレーとかで進藤先生が走ったり、カメラ持ったりするのかな?


授業参観よりもその後の保護者の懇談会とかの方が面白いだろうな

学校問題の解決に1人熱気をだして
持論を展開し始めて
周りの保護者は引くんだろうな

そう考えると面白くて堪らない


「キミ、さっきから僕の話聞いてないだろう

キミは本当に自分勝手だな」

今は喫茶店で進藤先生と拓海君とおしゃべりをしている

先に来た私はアイスコーヒーを頼んだか
もう氷が溶けて生温く
美味しくないので
ストローでかき回して遊んでいた

進藤先生は紅茶を拓海くんはオレンジジュースを飲んでいた

「質問ですか?なんの事です?
結婚式は和洋どっちがいいかって質問なら答えますよ?」

「…………僕はキミにいつプロポーズしたんだい?……それにキミはまだ学生だろ?もうすぐ、就活もするんだろう?
キミは理系なんだし院の方がいいんじゃないかな?」

「冗談ですよー、やだなー
それにプロポーズなら私がしますよー

大学院はいきませんよ
私、高校の教師になるんですよ」

「…キミは教師には向いてないと思うが
どうせ
キミは自分の意見を曲げないだろうな

質問っていうのはアレだよ、キミと始めて会った時に
僕に聞いただろう

スペースシャトルの中で紙ひこうきを飛ばしたらどうなるかって?」


「えっ……あれ……私、今22ですよ
2年も前の事ですよ
えっ、先生ったら
2年間も考えていてくれたんですか?」

私は思わず笑いが止まらなくなる
ド真面目な進藤 彰なら2年間くらい考えていてもおかしくない

「…なんだか僕を馬鹿にしているようだが、それは検討ちがいも甚だしいよ

その質問、もともと懸賞問題だろう

僕の友人の助教授がその問題を解いて
金メダルをもらったんだ

そもそもキミは懸賞問題の答えを僕に
聞いて応募するつもりだったんだろう ?

本当によくそんな汚い事考えつくよね?」

「汚いって酷いんじゃありませんか?
単純に知的好奇心が働いただけですよ


それに、この問題、実に数学的な感じしませんか?

先生好きだろうなって思ったんです」

私は肩をなでおろす

拓海くんはチーズケーキを食べていた

「此の世は3本の軸で成り立つ

前後左右そして上下の軸だ

つまり縦横高さの三次元を意味する

紙ひこうきが前に直進したとき

上下の軸の傾きと左右の軸の傾きは

尾翼にあたる空気で戻される

そして自己安定の装置が働くんだ

だけど前後の傾きにはその復元力がない

何故なら、その軸の方向に飛んでいるから」

「…つまり前後の軸だけが特殊なんですね

すると無重力空間では……あっ‼︎そっか!」

「そうだね、前後の軸を中心に飛ぶから

ロールするんだね、これが答えだ


といっても解いたのは友人であって
僕は彼の言葉を拝借しているだけだ」


「綺麗ですね、力学的というより数学的ですね」


私たちは黙ってお茶を飲んだ

途中から拓海くんも私たちの話を聞いているようだった


拓海くん…やっぱりお母さんの事もあるし
なかなか私を受け入れてはくれないだろうけど

これは少しずつ
私に慣れて貰うしかないな


もうすぐ午後の陽射しが差し掛かる頃だろう


それが、私が拓海と始めて会った
22の夏のことだった
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