思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
「だから綾瀬くん、この服着てくれない!?」
「さっきから断ってるんだけど………」
「一度でいいからっ!」
体が止まったように、思考も止まったみたいで、会話の内容に追いついていけない。
え、女装……蒼空が?
な、なんで……?
「さっきから言ってるけど、俺そういう趣味ない。……優那に頼まれたら着るかもだけど」
私に言われたら、女装しちゃうの!?
ちょっと衝撃的すぎる発言だ。
「そう……なら今日は諦めるわ」
「きっぱり諦めてくれると嬉しいんだけど」
「今度、凪宮さんに頼んでおくわ……」
「え」
え。
私も驚いてしまう。
「優那に頼むのは辞めて。とういうか、もうそろそろ帰っていい?」
「引き止めてごめんなさい。でも、今回は諦めるけど、いつかきっと着てもらうから!」
「は、はぁ……。優那、怒ってるかな」
ガラッと音を立て扉が開く。
「あ」
「あ」
教室から出てきた蒼空と目が合う。
バレてしまった。
「何で優那がここに?」
「そ、蒼空が遅いから」
「それはごめん」
「用が済んだなら帰ろう?」
「ん」
特にあの会話についてとやかく言うことはせず、かといって他に会話もなくただ2人並んで帰った。
「ただいま」
「あ、おかえり2人とも。遅かったね?」
夕が珍しくエプロンを腰に巻いていた。
「甘い匂いがする」
蒼空が言う通り、リビングには甘い匂いが充満していた。
匂いの元はキッチンからだ。
「実はさ、生キャラメル作ってたんだよね」
「夕ってお菓子作り出来るんだ……意外かも」
いつもお菓子ばかり食べてるし、食べる専門と思ってた。
「へへん、僕だって料理くらいできるもん。食べるだけじゃないよ。他にもカップケーキとかクッキーとかケーキも作れるんだから。まぁ、滅多に作らないんだけど……」
夕がキッチンに立ってるなんて異様な光景だ。
いつもあの場所には透が居たから。
「夕、今度何かスイーツの作り方教えてくれない?」
そういえば透ってスイーツ系とか作るの苦手なんだっけ。
「任せてよ!」
「夕先生?」
蒼空がポツリと呟く。
「ふふん、もっと言って!」
「夕先生、試食は俺が」
「任せたよ、蒼空くん」
「おー」
夕は、"先生"と呼ばれて鼻が高くなっているようだ。