思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
Secret6
夏が終わった。
これといって変わったこともなく、月日が過ぎていた。
いや、確かに変わったものはあった。
けれど、平行線のままだ。
勿論、そんな中でも私は考えていた。
「"いらない過去なんてない"」
理事長はそう言う。
過去があってこその今……
逃げてばかりはいられない、と。
「透。今、少しいい?」
「いいよ。あのこと……なんだね」
「うん」
放課後、透のクラスへ行くと、そう言って2人で屋上に入った。
9月に入り一週間が経ったが、まだ夏の暑さが残っていた。
「で、話って…………」
どうやら透は悟っているよう。
「教えて欲しいの」
「___分かったよ」
「私もね、全く覚えていない訳じゃないの。断片的に思い出してはいるみたい」
「例えば?」
「透のお兄さんが来た時、頭が痛くなって……そのときに聞こえたの、男の子の声が。
私に、何して遊ぼうか、海が苦手なのか、泣かないで、おんぶしてあげる、とか」
今の透よりも遥かに高い声。
「それ、俺が優那ちゃんに言った言葉だ!」
「それと、この間行った海辺の別荘にあったうさぎの置物にも見覚えがある」
吸い込まれてしまいそうな瞳、それが印象深い。
「うさぎの置物…?それって、碧色のガラス石がはめ込まれたのだよね」
「そう。私が泊まった部屋に置いてあった」
「それは、優那ちゃんのお気に入りだったんだ」
「お気に入り?」
「そうだよ」
そのとき、何か硝子のようなものが割れた音が聞こえた気がした。
割れた中身が溢れ出すような。
とても不思議な感覚。
「ぁ……思い……出した」
鮮明で、はっきりした___思い出だ。
「ほ、本当に!?」
溢れ出すものは、頭の中を一気に駆け抜ける。
見たもの、聞いたもの、全てがまるで映画か何かを見るように鮮明だ。
それは_______________暑く、肌が焼けるような日差しが降り注ぐ海辺での話。