思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中





あれは、私が8歳の頃の話。




夏休みに、家族と一緒に海へと旅行に来ていた。




けれど、私はあまり乗り気ではなかった。




何故なら、海が嫌いだったから。




何故嫌いなのかは、あまり覚えてはいない。




私は海には入ろうとせず、砂浜の上でじっとしていた。




ゆらゆらと揺れ、白く波立つ海が怖くて仕方がなかった。




そんな波の中で、父ともう一人男の人、そして同い年くらいの男の子が遊んでいた。




透ではない、別の男の子。




どうしてか靄がかかってはっきりとその顔が思い出せない。




「海に入ろう」





「え……?」




嫌だよ、海に入るなんて。




出来ない。




だから逃げ出した。




隣に座る母を置いて、走りにくい砂浜の上を力いっぱいに踏んで、海から離れた。





気付けば、砂浜の無いコンクリートの道までやって来ていた。





戻る気など到底なく、私はその道をとぼとぼと歩いた。





賑やかな海とは違って、少し離れたこの道は、静かな別荘が佇んでいた。





別荘の中でも、一際大きな別荘……と言うべきかもわからぬ年季の入ったお屋敷があった。





異国情緒が溢れていて、その場にはそぐわない雰囲気を醸し出していた。





そんな建物を見るのは初めてで、いつの間にか私は足を止めて見上げていた。





すると、お屋敷2階の部屋にあるベランダから、男の子が顔を出した。





暗めのブロンド髪が、透だということをはっきりとわからせた。





少しの間目を合わせていると、不意にその男の子はベランダから顔を引っ込めた。





どうしたのだろうと思っていると、今度は1階の玄関と思われる大扉から顔を出した。





「ね、ねぇ……!」




急に話しかけられ、肩がビクリと跳ねる。




「……」




なんの反応がないのを不安に思ったのか、男の子は大扉から手を離し、近くまで来た。





大きな瞳をうるうるとさせ、もぞもぞしながらも口をパクパクとさせる。





身長は私よりも少し大きく、年上なんだと思う。





その時の私は、そんなこと全く気にしていなかったようだけど。




「僕と遊んでくれないかな……?」





「遊ぶ?」




初対面の、全く知らない子からいきなりそんなこと言われては、困ってしまう。





別に人見知りなわけではないけれど、どう返すべきか悩む。




きっと今頃、両親は私を探しているだろう。





見つかれば海に引き戻されそうだし………





「いいよ」




そう答えた。





「本当!?じゃあ、中に入って!」





手を引かれ、その大きなお屋敷の中に入った。



































< 86 / 128 >

この作品をシェア

pagetop