最期
いつだったか、小学生の頃――


父の会社の人に会ったことがあった。


「こんにちは
いいお父さんだよね?

よくキャッチボールしたり、野球を3人で見に行ったりするんでしょ?」


俺は瞬時に固まった。


――なんだ?それ……なんの……話?


助けを求めるように、横にいた父を見上げた。


何かの間違いだと言ってほしくて……


だって俺らは父と野球を見に行った記憶も、キャッチボールをした記憶も、ないのだ。


「悪いな?こいつら人見知りで」


上から降ってきた父の言葉は、予想していたものじゃなくて……


俺たちが人見知りだから答えないんだと、そう言っていた。


それは野球もキャッチボールも全部肯定する意味合いなわけで、俺らは二人して顔を見合わせたのを覚えてる。


会社の人と別れ、父と俺たちの3人になっても、父からのそのことについての説明はなく、俺たちも、なんとなくその話題に触れることを避けていた。


今思えば、自分はいい父親なんだと、会社でアピールしていたのかもしれない。


一瞬、気まずそうな顔を見せたのは、普段はいい父親どころか、家にいないことが後ろめたかったからなんだろうか?

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