阿漕荘の2人
紫子side

8月某日晴れのち曇り

世間はお盆の帰宅ラッシュ


人の流れがいつもの3倍のスピードで
街を駆け巡る夕時


2人の男女が噴水前で言い合っている


周りはカップルの痴話ゲンカとしか

思っていないだろう

これは一つの事件の始まり……



「香具山さんだよね?」


紫子は見上げた

そして考える、この男……見たことがある⁈
でも、誰やっけ?


謎の男は身長180㎝くらいの長身痩せ型

170㎝近くある紫子も目線は上向きになる

年齢は同じか少し上か?


何処で見たんだっけな?


「貴方、誰ですか……?」


「…僕の事知らない?」

「…ナンパならもっと可愛い子
今日は沢山来てますよ……」


「香具山さんに用があるんだけど……」


「…私、今、待ち合わせ中なんで

他当たって下さい」


なんでこの男、うちの名前知っとるんやろ

なんや、気色悪いなー


「我孫子 圭介、c大学経済学部

z大のカヌーサークルで……」

「…あっ!!!
櫻子の彼氏はんや!!!
確か、サークル仲間で!!」

「そう、飲み会でアニメの話で意気投合して
そのまま一晩、女の子とアニメ話で徹夜した男だよ」


櫻子は見た目に反して
かなりのアニメオタクなのだ

普段は隠しているがサークルの飲み会でボロがでてしまって
終わりやーって
思ってた時

たまたま隣に座っていた
他大からサークルに入ってきた
我孫子くんもまた
アニメオタクで
仲良くなってそのまま付き合ってるとか……


「なんや、悪いことしたなー
我孫子くんのこと写真でしか見たこと無くてな

よく覚えていなかったんや、すまんな」


そうと分かれば、一安心。

胡散臭いと思ってた笑顔も
なんや、人懐っこくて当たり障りのいい人やないか



「あー実はね、櫻子、今日さぁ
香具山さんと夏祭りに行く約束してるでしょ」

「そうやそうや
ほんと、まぁ、お宅の彼女さん何してるん?

人待たせといてメールの1通もあらへんで」


「ごめんねー、実はね、
櫻子、今日はこれそうに無いんだ
夏祭りの約束
キャンセルして欲しいんだ」


「えっ?!
。何やって!楽しみにしとたんのになぁ

残念やなぁー

アイツ、今何処におるの?」


「実はね、今日、うちでちょっとしたパーティを開いててね

櫻子も午前中だけのつもりで
参加してたんだけど

何か飲み過ぎたんだか気持ち悪くなったとかで
寝ちゃってさぁ

さっき起きたはいいけど
もう、夏祭りに行く気力も無いみたいで



でも香具山さんと約束してるし
あんまりにも無責任だから

その、お詫びといったら何だけど

パーティに参加しないかい?

今なら櫻子も起きてるしね?」


「えっ?でもパーティって?
うち、見たとおり、浴衣やし
それに
部外者のうちが行っても
何か気まずいし……」


「あー、大丈夫だよ
パーティっていってもみんな普段着のホームパーティだし
櫻子も香具山さんとの予定が
あるからって浴衣着てるし

サークル仲間とか友人とかの集まりで

正直、誰が来てるのかなんて
よくわかんないし

それに料理もお酒も用意してあるよ」


「えっ!酒もあるん!」

「もちろんだよ!」

なんや、タダ酒やないかい!

「立食パーティーだよ」

「立食!」

パーティーの場合、立食が一番魅力的だ

自分がどれだけ食べたか飲んだ他人には知られない


紫子は女性なので一応、お淑やかにしたいが、そのくせに大食いである
まぁ練無ほどではないが

それに対して強くないのに酒好きである

タダ酒が飲める機会をそうやすやすと逃してはいけない


「行きたい!お願いします!」

「そうこなくっちゃね
車だから、送っていくよ」

「あっ!すみません、茅駅でちょっと降ろしてくれませんか?」

「ん?どうして?」

「いや、イヌにエサやらないといけなくて……」

実は最近はネルソンが夕方になると香具山宅に餌を貰いにくる

「家まで送るよ」
「いや、それはちょっと…
その、古いアパートなんで」


こうして香具山 紫子は 我孫子 圭介の車にのり
一回降りて家に戻り
そのまま我孫子の車にもう一度乗り

我孫子邸に向ったのだ……
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