阿漕荘の2人
第2章 ファンタジー

相談

練無side


あの事件から1週間たった土曜日の
午前10時

森川邸



「小鳥遊…………


あのね……僕の家は恋愛相談所でも

愚痴り休憩所でもないんだよ


……1週間も同じ話しを聞かされる僕の

身にもなってくれよ」


森川 素直が友人の小鳥遊 練無

にコーヒーを渡す

「だって……ぐすっ」


「嘘泣きはやめなさい」

ちなみに今日の僕は直径80㎝のフリルつき水色スカートに

チェックのシャツ


リボンの髪飾り


まぁ、いつもよりは地味な


小鳥遊 練無

女の子バージョンだ


ちなみに森川は最近僕のことを
『小鳥遊』と呼ぶようになった


というか、僕がお願いした

何ごともフェアが大事なりな


「あの時はさぁ

僕が欲望のままに

しこさんの腰に触れたくって……」


「……僕の部屋で
そんな格好で
そんな生々しい話をしないでくれ」


「えっ?もしかして?

そうなの?森川ったら?

まぁ、いやらしい」


「…キミ、段々と香具山さんに似てきたんじゃないの?」


「えーやだなー

勘弁してよー」


「自覚はしたんだよね?」


「自覚はしたよ

流石にあんなの見せられたらねぇ

ソファの上で 男に股がられて

下着姿のー」


「あー!ストップ!!
止めろよ、小鳥遊!

顔見れなくなるだろうが」


「……想像したの……?」

「それは……」

「おい、いくら親友のキミでも

それは許さないぞ!

妄想するなら僕にしろ!」


「えっ!キミならいいの?
それもどうなのかな

なんか僕、そういう歪んだ友情やだな」


「で、僕はどうすればいいかな

しこさん
きっと男が怖いんだよ

僕のこともたぶん、怖いんだよ」

「それは、彼女がキミのこと

男の子だって思ってるってことだろう


良かったじゃん」


「おい、森川」

「なに」

「しこさんのこと
彼女って呼ぶなよ」

「はっ?ただの代名詞じゃん」

「だとしてもヤダ」

「キミ、キャラ崩壊してるよ

何で自覚したとたんに

番犬になってるの?

僕ついていけないよ」


「それに僕は男だよ

いくら頭トンチンカンなしこさんでも

まだ僕を女の子だとは思ってないよ」


「そういう意味じゃないよ」


「どうすればいいかな」


「告白すれば?」

「森川……僕の話聞いてた?

男が怖いんだよ」


「じゃ女の子でいけばいいじゃん」

「えっ」

「あれ?変なこと言ったかな」


「すげーよ、森川!
お前天才だよ」

「キミはほんとに医学部なのか」
「やっぱ、森川に相談して
正解だったな


どうだ、お礼にパンツ見せるぞ」


練無はひらりとスカートを持ち上げる


「……男のパンツ見たって悲しくなるだけだよ」


「あーでも、なんか最近

しこさんと話してないんだよなぁ」





「うちがどうしたの?」


「……いや、だからさぁ


ん??


あれ??



えー‼︎」


「…なにたまげてんのや」

森川邸の玄関にしこさんが突っ立てる

もはや立っているというよる

既に靴を脱いでる

「邪魔するでー」


「ああ、うん」


森川が答えた



はぁ??


「何でしこさん

普通に入ってるのかな?」


この質問、どっちに聞いたんだろうか


「なんやうちのこと

話してたんか」


「……何処から聞いてたの?」


「キミが森川くんにスカートの中

見せてるとこや

はっきり言ってドン引きやで

キミ、欲求不満ちゃうの」


「…見せてるんじゃなくて
見せようとしてたの

実際見せてないし」


「そんな細かいこと

気にすんなや」


「いや、かなり大きいよ

とっても重要だよ」


しこさんは勝手に上がり

森川邸の冷蔵庫を開け

麦茶をのむ




なんだかさっきから

彼女の行動に違和感を感じる


どうして


なんの戸惑いもないんだ

どうして

そんなにスマートなんだ?



「ねぇ、森川」

「ん?」

「しこさんってよくここに来るの?」

「来るで」

「は?」

「なんや、どうしたん」


答えたのは紫子だった

なんで?え?

良からぬ想像が駆け巡る

「ちがうんだ、小鳥遊」

「なにが」


「なんや、れんちゃん、
あんたの部屋だけやないで


うちは阿漕荘全体を住まいにしてるんや」

「は?」


「だから、どの部屋もうちのやし

うちの部屋もうちのや」


ほーなるほど


ジャイアン理論か


読めてきたぞ

「それじゃ、しこさんが

勝手に部屋に入ってくるのは


僕の部屋だけじゃないのか」


「んなの、当たり前やんか

うちは
何ごとにおいてもフェアな女やで


あーでも、れんちゃんとこが一番多いで」




にこにこしているしこさん


目をそらす森川


そして


「しこさん、ちょっと、いいかな」


紫子の返事を待たず
彼女の腕を掴み、森川邸を後にする


「香具山さん、がんばって」



森川が何か言ったが練無の耳には入らない



紫子は何がなんだかわからず

練無についていく


練無の部屋のドアが開く



2人は入る



なかは蒸し暑い


「れんちゃん、扇風機つけるで」


紫子は勝手に部屋にあがり

扇風機のボタンを押す


練無はゆったりとした動作で彼女のもとに向かう


「れんちゃん?」
「しこさん、あのね…」



練無が紫子の隣に座る

紫子はソファにもたれる


「しこさんはさぁ

ちょっと危機感たりないんじゃないの」

「危機感?」

「いっちゃわるいけど

この前の事件だってね


しこさんが見知らぬ男のクルマに乗らなければ良かったんだよ

にもかかわらず

森川の部屋にまで入って……


しこさんはさぁ

そんなんでも女の子なんだよ」


「なんや、さっきから
黙って聞いとれば

だいたいなぁ、あん時は
櫻子の彼氏やって知ってたし

実際、櫻子は既に捕まってたから

あの場に行って正解やったんや」

「……正解?

しこさん、結果的に主犯の男に犯されそうになってたじゃん


上に乗っかって
下着姿にされて

胸触られて

舐めまわされてたじゃん」


「…やめてや、そんないやらしい……」


「事実でしょ、
僕が助けに行かなかったら

もう少し遅かったら

しこさん、最後まで……」


「あー止めろや!


あん時は、ほんと感謝しているで!

ちゃんとお礼言ってなかったもんな

ほんま、れんちゃんには助かった」


「別に礼が欲しいわけじゃないよ

違くて、もっとしこさんは男に対して危機感を持って欲しい……」


「なんかいつものれんちゃんと違うなー

なんか、最近変やで

それにうちみたいな男女に
興味があるヤツやなんているわけないし……」


「いるよ!少なくとも1人はね!!


しこさんがそう思っても
相手はそう思うわけじゃないだろ!


しこさんはあの時

だから男が怖いって思ったんでしょ」



「……確かに……すっごい怖かったけど……」


「トラウマなんでしょ」

「…とらうま?十二支?」

「引きずってるんでしょう」


「…なんか、違う気ーするな」


「……だって、帰り道、ずっと無言だったし

僕がその………怯えたじゃないか」

「…あれはちゃうで……

あん時は……れんちゃんが……」


「え?僕?」

「…だからな、乗り込んできた
れんちゃんがな

いつもと違くてな

口調もちがうし

ほんまに犯人、殺しちゃうやないかって

思ってな

あれ、うちが知ってるれんちゃんは何って?」


「…僕が怖かったの?」

「そうや」


「……まだ、僕が怖い?」

「…いいや

やっぱし、れんちゃんはれんちゃんや」



「…ねぇ、しこさん……

ちょっとだけ
ギュッてしていい?」


「…いいで?

れんちゃん寂しくなったんか
甘えんぼさんやな」


練無は紫子に抱きつき

そして優しく包む


「…しこさん」

「なに」

「お願いだから
僕以外の男の部屋に入ったり
ついてったり
こうゆう事されたり
しないでね」


「なんでれんちゃんはいいんや?」


「僕はいいの」

「れんちゃんは女の子なんか?」

「しこさん…」

「なに」

「好きだよ」

「ん?うちも好きやで?」

「誰のこと」

「うちのこと」

「今はそれでいいよ」

「変なれんちゃん」


「僕、がんばるから」

「ん?何を」


「僕、欲しいものは何としても
手に入れたい」

「欲張りやね」

「そう、ほんとはもうちょっとしたい」

「何を」

「いろいろだよ」


「れんちゃん」

「何」

「暑い」


「もうちょっとだけ我慢して」

「れんちゃん可愛い」

「しこさんかっこいい」

「れんちゃん」

「何」

「暑い」


「……黙って」
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