猫とカフェ
「俺は多分、後数年でこの世界からは居なくなる。いわゆる寿命というヤツや…ここでのお勤めが全うに終わると、一つだけ希望が叶えられてホンデ俺は元の世界に戻ってハッピーな生活が待ってるとゆー訳や」
目の前の可愛くない私の飼い猫がテーブルに私を誘導した上に、語り始めている現実にとまどいつつ耳は話をしっかり聞いている。
フェスタ達は生まれると、子供の頃から一旦こちらの世界で暮らし、猫の世界?とを行き来し、私達の生活や文化を伝え、こちらでの寿命が無事に迎えられるとあちらの世界で又新しい生活をスタートできるという事のようだ…
「寿命が来るまで、この世界に居れるのはかなりなエリートやねんで!まず、自分が話を出来る事をバレずに生活し、事故にも巻き込まれず、自分の好奇心にも負けず、ひたすらここでのお勤めを果たすんやからな…」
話の端々に自分の自慢を織り交ぜてくる所を見ると、見た目だけではなく、性格もやはり悪いのだろう…と別の事を考える余裕が少し出てきた。
「さて、ここからが大事なとこや!」
口の周りについているプリンを大事そうに舐めながら、緑色のフェスタの目が少し光ったような気がした。
「普通やったらそれで終わるねんけど…ここの世界で寿命を終えるとて同時に向こうへ帰るには条件というか審査があって、その点数が悪いもんは帰る事ができない!エリートな俺でも足りない点数があったんや。しかも0点や!100点満点中の0点やで!!厳しすぎるわ!」
猫の世界?かどうかよく分からないが、その世界でも成績的な物をつけられるのはなんだか可哀想だ。私自身も学歴がないし、今何かの試験があったって、受かる気なんて全くしない。年齢のせいか、中々頭にも入らないし物忘れも多々ある。フェスタもここで10年以上生活しているので、人間で例えると私より年上の爺さんのハズだ。そんな猫に審査をするというのも中々過酷な気さえする。
「私もバカだから勉強的な試験があると、絶対無理だと思う…まして0点という事は相当難しいんでしょ?」
私の残りのプリンをフェスタの皿に全部入れてやった。
可哀想に思えて、自然とそうしていた。
無言でササっを平らげると、口の周りを同じように舐めながら…
「勉強の試験とかではないで?」と答えた。

「あ…そうなんだ。まぁ…よく分からんけど条件があるのって辛いよね」
「そうやろ?中々厳しい世界やろ?0点じゃなかったら、違う希望出してたわ」
本当だったら、寿命が近づく数年前に札が渡され希望を書き、叶えられてから向こうの世界に戻るらしい。でも、審査に通過しない猫はそのまま普通に寿命が来て終わりのようだ。その為、面談を設けられ交渉をしたり、希望札をどう使うか等相談し、猫の世界で新しい生活ができるように話し合いをするようだ。
「大変なんだね…でも、面談が終わったという事は解決したんでしょ?」
励ますように言ってみた。
「一応、点数は仮に貰えるが…後はあんた次第や」
いつも目つきが悪いフェスタの緑色の目が少し光ったような気がした。
「えっ!?私は力にはなれないよ!何の特技もないし…」
慌てて言い返す。
「タダでとは言うてないで?あんたはお金と安定した生活が欲しい。俺は点数が欲しい。お互いに損はないやろ?」
更に緑の目を光らせている。
これは何かを試されているのだろうか…?私は猫の世界とは何も関係ない…フェスタが話せるのを急に知ったばかりだ…イヤ今はその事は一旦置いておこう。
今は返答を求められているのだ!
「私にできる事なら…」
自信なく答えると、フェスタがニヤっと笑った気がした。
「これを話すんがあんたで良かったのは…友達おらんし、口は堅いから誰にも話す事ないし、男並みに肝座ってるから悲鳴とかあげへんと思てたわ。ホンマは…あんたのオカンに頼みたかったんやけど…話した瞬間に腰抜かすかもしれんやろ。それに俺の事が可愛いし大好きやから、俺が話し出来ると分かったら別れの時に余計に寂しくなるやろ?未練がずっと残って、病気になるかもしれん。あと妹でもええけど、気が小さいからびっくりしすぎて倒れてしまうかもしれんし…」
余計なお世話である。
長々と遠回しに自分の悪口を言われているようだ気分だ…

確かに私は、母とは違いフェスタ冷めた感じで見ていたかもしれない。
ただ、その責任はフェスタの態度にもあるのでは?と思ったがグッとこらえた。
でも、友達がいない・口が堅いは当たっている…大人になってから、職場で知りあった人と休みの日まで過ごしたくないし、女性が集ると人の悪口か男性の話しをダラダラとしていて、帰りたくても帰れないのが嫌だったし、ペラペラを噂話をする人も嫌いなので、私は余計な事は話さない。そういう事もあり、妹と行動する事が多かった。
一緒に生活をして来たフェスタにはバレていても仕方のない話だと思う。
「あんた…スイーツ好きやろ?あんたのことは別としてスイーツの好みはええと思う。味見してるからよう分かる。ほんでたまに作るおやつもええ味出しとる。
そこでや、店出したらどうや?って話や」
「はあ?いや…それは無理だよ…」
「まあ、焦らんと最後まで話しさせてーな。これからちょっと修行してもろてそれからやし大丈夫やろ?自信もつくしな。」
修行…何をさせられるか見当もつかない。
ただ…無職となった私は今再就職するのも困難で収入減は何もない。
お金が稼げるなら、私にもできる事なら…この際猫の手を借りてもいいのではないか…。
一緒に生活しているフェスタならきっと私の能力や性格もお見通しの上での話だと思うし。
「できるかどうか分からないけど…やってみる価値はあるかもしれないよね」
自信なさそうに答える私に
「後悔はさせへんで」
時代劇に出てくる悪代官みたいな表情(に見える)でにんまりとしていた。
「ところで…取れなかった点数ってどんな内容なんかな…?」
何故か気になって聞いてみた。少し猫と話せるというこの状況に慣れてきたのかもしれない。
「猫にとって最大の点数…癒し点や」
「ブハッ!!!」
分かる!!!それ凄く分かる!こんな可愛くない猫初めてだもん。今まで抱っこすら嫌がってさせて貰えた事ないし、エサかおやつの時だけ寄って来る小太りの目が坐った中年のおっさんだもん!なるほどね~見てる人はちゃんと見てるもんだね~。
「まあそういう訳で点数稼ぐためにも、今回の願いをこういうボランティア的な事に使って何とか勘弁してくれという話し合いをしてきた。だからあんたの役割はかなり大きくなるで」
いろいろ考えると笑いを堪えるのに必死だったが、急に現実に戻された気がした。
フェスタ自身も何も言ってこないとなると、ある程度自分の可愛げのなさに気付いているのだろう。
「分かった。出来る限りの事はしてみるよ」
と返事をする前にフェスタは自分がいつも寝ている場所へ足を運んでいる。
「今日は話しすぎて疲れたからもう寝るわ」
とバタンと身体を面倒臭そう倒すと丸まってすぐに眠りについてしまった。
無視かい!と心の中でツッコミを入れたが私も色んな事が起こりすぎて疲れが出たのか間もなく眠ってしまっていた。
「ま~ご~・ぐあ~ご~!!!」
可愛げのない声にたたき起される。
ぐっすり眠ってしまったのか気付いたら朝になっていた。
フェスタが朝ごはんの催促をしている。なんで猫って毎日決まった時間に起きれるもんなんだろ…今日は少しゆっくりしようとかないのかな…
面倒臭いがとりあえず起きて、台所に向かう。猫の缶をしまっている扉を開けるとご飯が貰えるともう分かっているのか更に近づいてきた。
「はい、はいお待たせ致しました」
いつものようにエサを与え食べている所をボーっとみていた。
そうだ。私も何か食べよう…冷蔵庫の中から食パンを出しレンジのトースターで
焼き上げるのを待つ事にした。その間にアイスコーヒーを準備して椅子に座って待っている。いつも通りの朝だ。
昨日は色々あったけどこんなに普通に朝を迎えている
バターとブルベリーのジャムを塗り終わって食べようとすると足元から声が聞こえた。
「一口くれや」
「……」
やっぱり夢でも妄想でもなく、昨日の出来事は本当だったんだ…
下を向く前にフェスタはテーブルにスタッとジャンプしてきた。
「分かったから。小さい皿出すからちょっと待って」
さすがに同じ皿では食べたくなかったので慌てて皿を出し、少しちぎって
フェスタ用にあげた。
「ここのはやっぱりブルーベリーやな。オレンジはイマイチやったけど」
どこの評論家だ!と思いつつ黙って食べた。
食べながら、フェスタが又話し出す。
「昨日の復習でさらっと猫の世界について言うとくわ」

フェスタによると、猫がこの世界で暮らしているのは目的があって、人の色々な生活の知恵や文化を学んでいるそうだ。猫の世界で何年か暮らし、この世界に住むように選ばれた猫は生まれたての猫としてこの世界での生活がスタートする。
猫の世界へ報告を自分のタイミングで定期的に行い、優秀な猫は点数をどんどん加算されていく。後は無事にこちらの世界での寿命が来ると願い事が1つ聞いてもらえて、その上で元の世界で自分の好きな年齢から余生を過ごせるらしい。
そこで疑問が1つ…
「いつ猫の世界に報告に言ってるの?」
「ああ…左の前足を自分の好きなとこにぺタとつけたらいつでもいける。俺らみたいな飼い猫は大体夜や。野良猫やったら自由にいつでも行き来できるけどな」
「ふーん…」
「まあ、あんたも今日行くからどんなもんか見てみたらええわ」
「はい!?」
アイスコーヒーを吹き出すのを必死で堪えた。
「いやいや修行は向こうでするんやから当たり前やろ?」
「聞いてないんですけど…しかも言った事ないけど、人間?が行ったらやばいんじゃない?そういうもんなんじゃないの?」
「どうせ向こうで見たり聞いたりした事は、ここでは話そうと思ってもできないし、自分の記憶に残るだけやから大丈夫。しかもあんたは話す奴さえおらんやろ
?妹にも猫の世界に行った内容はもちろん話は出来ん。だから妹本人にも出来れば修行に来てもらいたいんやけど、まずはあんたからや。」
皿についていたジャムを舐めながら淡々と話すフェスタに戸惑うばかりだ。
「願いの中にもちろん修行も含まれとるから向こうの許可も取ってあるし、そこは心配せんでええよ。」
いや…心配というより若干怖いんですけど…精神疾患が悪化しないかな…
どんな先生(猫)なのかも怖いし、そもそもそこに行くのも怖い。
しかもお互いのというか私がフェスタをそこまで信用していいのか含め色々怖すぎる!
フェスタも必死の策でこの願いを叶えたいのかしれないけど、こっちの心の受け入れ態勢も少しは考えて欲しいな…まだ起きて間もないこの状況で頭の回転も冴えてないし、いい考えも思いつかない。でも多分…もう断る事はできないんだろうな…という予想は浮かんでいた。
「あ!ジャムだけちょっと追加して」
人の心配はお構いなしにジャムの追加の催促をするとは…
「わかりました」
仕方なくジャムをフェスタの皿に少し盛ってやった。

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