Seventh Heaven
第六章 白銀の世界 前
あの日。
あの出来事。
わたしが、真紅達を失い、紫の瞳の少女に敗北してから、一週間が経った。
あのまま、死んでしまうのだろうと覚悟していたけれど、結果的にわたしは、この世界に無事帰還していた。
気付いた時には、この現実世界にわたしはいた。

ただ、もし、あの世界で命を失っていたとしたら、今頃わたしはどうなっていたかわからない。

そして、七咲さんはと言えば、学校に再び登校するようになっていた。
しかし、その表情は暗いままだった。
おそらく、あの少年との関係は続いているのだろう。
わたしは、あの紫の世界を消滅させられなかった。
七咲さんを救えなかったのだ。

わたしは、あの日以来、彼女の家を訪ねていない。
あのドアを、再び開ける勇気がわたしにはもてなかった。
きっと、七咲さんは、あの少年から苦しめられているにも関わらず、そう、わたしはまた、見て見ぬふりしかできない。
しかし、それは仕方ない事だと、自分に言い聞かせるしかないのだ。

なぜから、あの日から、わたしを支配する圧倒的な恐怖に、どうやっても抗う事ができないからである。
あの紫の世界へ行くことが、怖い。
仲間を失った悲しみと、自責の念。
そして、七咲さんを救えなかった自分の無力さに打ちひしがれ、生きていても死んでいるかのような毎日をわたしは送っていた。

七咲さんとあの日以来、一言も会話できぬまま。

そんなある日の美術の授業での出来事である。
この日は、以前、授業で描いた絵画の美術コンクール入選者の発表がされることになっていた。
それは、毎年恒例の行事である。
わたしが通う高校は、美術を専攻した全生徒は、このコンクールへの作品応募を義務付けられている。
絵を描く事が好きなわたしも、このコンクールの為に、わたしなりに本気で絵を描いたけれど、入選など夢の話。

と言っても、入選者にはトロフィーと金一封が与えられることもあって、毎年発表の日は、無関係なわたしも無駄にドキドキしてしまうのだ。
そして、七咲さんもわたしと同じく、絵を描く事が趣味だ。
一緒にお弁当を食べていた頃に、絵画教室に通っていた時期もあったと聞いた事がある。
彼女が今回応募した作品は、まるで、芸術家が描いたような絵画だった。
彼女の作品は、去年のコンクールで入選しており、今年もまた、入選するだろう。
誰もがそう思ってやまなかった。

しかし、入選者は、彼女ではなかった。

なんと、わたしだったのである。

「はい、記念品を贈呈しますね」

先生から、記念品を受け取り、席に戻ったわたしは、久しぶりに七咲さんに声をかけた。

「わたしの絵なんか、七咲さんにはかなわないと思ったんだけどな」

「何それ、嫌味?」

七咲さんは、わたしを睨み付けていた。

「変な慰めはやめてよ!心の中で笑ってるんでしょう!わたしに絵で勝てたって!」

授業の途中でありながら、七咲さんは美術室を飛び出していってしまった。

あんなに感情をむきだしにする七咲さんを見るのは、初めてだった。

七咲さんを助けると約束したのに、今のわたしは彼女から逃げているのだから。
七咲さんもきっと、それをわかってるんだ。
だから、あんな態度に…。

このままじゃいけない。

「待って!」

わたしは、急いで、七咲さんの後を追う。
そして、美術室のドアを開けた、その時だった。
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