Seventh Heaven
ドアを開けると、そこは、白銀に染まった世界。
まるで一面、雪景色のような美しい景色が広がっていた。
「綺麗」
わたしは、思わずつぶやいた。
絶景と呼ぶにふさわしい光景を前に、わたしは立ち尽くす。
まるで、心が洗われるかのような、美しい白銀の景色。
この世界は、なんだか、心が安らぐような、落ち着くような不思議な世界。
それにしても、まさか紫色の世界を消滅させていないわたしが、新たな世界に導かれるとは、思ってもみなかった。
いったい、この世界はどれだけ存在しているのだろう。
この世界が、七咲さんが創り出した世界だという事は、もはや確実だ。
しかし、もしも、彼女の悩み、苦しみの数だけ、この世界が存在するのなら、わたしはいつまでも導かれ続けるのだろうか。
きっと、この世界でも、わたしを待っているのは、過酷な戦いなのだろう。
しかし、仲間を失った今、わたしにそれを成し遂げる自信はない。
それでも、わたしは歩き始めた。
わたしがこの世界に導かれる理由が、ここにあるかぎり、立ち止まっているわけにはいかないんだ。
わたしは、七咲さんを助けたい!
わたしにあるのは、たったひとつの思い。
その思いを胸に、どこまでも続く白銀の世界を、ただただ歩き続けた。
こうして、ひとりで歩くのは、久しぶりだ。
真紅、緑夢、金華。
彼女達を思い出すと、涙が溢れてしまう。
わたしがもっとしっかりしていれば、みんなをあんな目に合わせることなんてなかったのに。
みんな、わたしの大切な仲間で、友達だった。
涙でぼやける視界に、ぼんやりと浮かび上がるのは、外観の全てが純白の古い寺院だった。
わたしは、そこに救いを求めるかのように、無意識の内に歩みを速めていた。
「おじゃまします」
寺院の扉を開けると、巨大な白い仏像がまず視界に飛び込んできた。
そして、仏像が座禅をくむ、その足元の異様な光景にわたしは絶句した。
「な、なにあれ」
まるで、繭のような不気味な物体がそこにはある。
わたしは、ゆっくりとそこへと向かう。
「ようこそ、我が世界へ」
繭のように見えたものは、四隅に棒がたてられた畳一畳ほどの空間に、白い紐を張り巡らせたものだった。
そして、その紐が張り巡らされた空間の中には、銀色の着物を着た白髪の美しい少女が座っていたのだ。
凛とした佇まい。
芯の強そうな眼差し。
まるで、月のような銀色に輝く瞳でわたしをじっとみつめている。
落ち着き払った彼女からは、一切の悪意が感じられない。
「あの、あなたは?」
彼女は、わたしをじっと見つめたまま、静かに話し始めた。
「本来ならば、そなたは、紫の世界を消滅させたのちにここへ来るはずだった」
「え」
「しかし、例外とは、常にあるものだ。だが、一度、紫の世界の消滅に失敗している以上、残された時間はあまり無い」
全てを知っているかのような彼女の口ぶり。
彼女は、この世界のどこまでを知っているというのか。
「貴様の心に乱れが生じておる。貴様の色に、濁りが見える。その濁りとは、恐怖か」
「恐怖」
そう、彼女の言う通り、わたしは恐怖している。それは、紛れも無い事実である。
あの紫の世界で出会った、あの凶悪な存在に。
わたしは、彼女に敗れ去ったのだ。
「あきらめるには、まだ早いのではないか?まだ、貴様はあやつに敗れたわけではない」
彼女は、わたしの目をずっと、見つめている。
まるで、心を読まれているかのよう。
わたしが思っている事を口に出さなくても、心を読んで、彼女はその答えを口にするのだ。
「近い将来、貴様はあやつとの戦いに、再び身を投じる事になるだろう。それは、けして逃れられぬさだめ」
たしかに、わたしはあの屈折した少年の魔手から、七咲さんを助けなくてはならない。
いつまでも、見て見ぬふりをしているわけにはいかないのだ。
あの紫の世界に怯え、逃げ続けていてはいけないのだ。
あの世界を消滅させる事で、七咲さんを救いだせるはず。
これまで、そうだったように。
「でも、また、あの世界へいく自信がもてないんだ」
わたしは、つぶやいた。
「そうだな。今の貴様では、あやつには到底かなわぬな」
「じゃあ、どうすれば」
「まあ、そう焦るな。我についてくるがよい」
彼女は、白い紐が張り巡らされた中で、ゆっくりと立ち上がった。
しかし、その後、しばらく立ったまま黙り込んだ。
「どうかしたの?」
「ちと待て」
「は?」
「いいから、黙って待てと言っている!」
足がしびれたんだな、絶対。
「も、もう大丈夫だ。それと、悪いが、そのだな、ちと手を貸してはくれぬか?」
少し恥ずかしそうに、少女は言った。
「え、あ、はい?」
わたしは、彼女に、そっと手を差し伸べる。
「よいしょっと、ふう」
彼女は、わたしの手を取ると、張り巡らされた白い紐をまたいで、その外へと出るのだった。
「ひとりで出られないわけ?」
「ま、まぁ、出る必要もなかったからな」
少女は、頭を抑えながら言う。
「で、いったいこの紐は何か意味があるわけ?」
「これは結界だ。白い紐を張り巡らせる事で結界を張っておる。結界とは、さまざまな方法があるが、外部からの影響を受けぬ空間を作り出す事を言う」
「外部からの影響って?」
「この結界の中にいれば、彼女の苦しみの感情により、我が苦しむ事はない。しかし、ひとたび出れば、このありさまだ」
少女が、頭を抑えているのは、彼女の苦しみを感じ取っているせいだったのだ。
「大丈夫?」
「心配は無用だ。では、ゆくぞ」
わたしは、前を歩く少女についていく。
腰まである長い白髪を眺めながら、わたしは思っていた。
彼女は、きっと信頼できる。
わたしは、彼女の不思議な魅力に憧れを抱きつつある。
しかし、そんな憧れは後に完全に裏切られる事になるのだけれど。
「ここだ」
辿り着いた先にあった古い木の扉には、まるで何か邪悪なものを封印しているかのように、数え切れない程のお札が貼られている。
禍々しい雰囲気の扉を前に、わたしは身動きひとつ取れなかった。
わたしにもわかる。
この先がいかに危険に満ちているか、が。
この扉の先から、わたしは感じ取っているのだ。
異様なまでの邪悪なる波動を。
「開けるからな」
高まる緊張。
わたしは、息を飲んだ。
そして、厳重に封印されたその扉が少女の手によって開かれたのである。
「こ、これは!?」
そこは、六畳程の広さの部屋。
そこにある本棚には、びっしりと本が並んでいる。
この世界に関する書物だろうか?
いや、違う。
少女たちの秘密のあそび?
さらには、ガラスケースに飾られた美少女フィギュア。
しかも、露出度の極めて高いものばかり。
「な、なにこれ」
「ま、まちがえた!」
少女は、顔を真っ赤にして、扉を閉めた。
なんだったの、今の部屋。
「な、なんだ、貴様のその目は。我を蔑むような目で見るでないわ!」
ただの趣味の部屋だったようだ。
まるで一面、雪景色のような美しい景色が広がっていた。
「綺麗」
わたしは、思わずつぶやいた。
絶景と呼ぶにふさわしい光景を前に、わたしは立ち尽くす。
まるで、心が洗われるかのような、美しい白銀の景色。
この世界は、なんだか、心が安らぐような、落ち着くような不思議な世界。
それにしても、まさか紫色の世界を消滅させていないわたしが、新たな世界に導かれるとは、思ってもみなかった。
いったい、この世界はどれだけ存在しているのだろう。
この世界が、七咲さんが創り出した世界だという事は、もはや確実だ。
しかし、もしも、彼女の悩み、苦しみの数だけ、この世界が存在するのなら、わたしはいつまでも導かれ続けるのだろうか。
きっと、この世界でも、わたしを待っているのは、過酷な戦いなのだろう。
しかし、仲間を失った今、わたしにそれを成し遂げる自信はない。
それでも、わたしは歩き始めた。
わたしがこの世界に導かれる理由が、ここにあるかぎり、立ち止まっているわけにはいかないんだ。
わたしは、七咲さんを助けたい!
わたしにあるのは、たったひとつの思い。
その思いを胸に、どこまでも続く白銀の世界を、ただただ歩き続けた。
こうして、ひとりで歩くのは、久しぶりだ。
真紅、緑夢、金華。
彼女達を思い出すと、涙が溢れてしまう。
わたしがもっとしっかりしていれば、みんなをあんな目に合わせることなんてなかったのに。
みんな、わたしの大切な仲間で、友達だった。
涙でぼやける視界に、ぼんやりと浮かび上がるのは、外観の全てが純白の古い寺院だった。
わたしは、そこに救いを求めるかのように、無意識の内に歩みを速めていた。
「おじゃまします」
寺院の扉を開けると、巨大な白い仏像がまず視界に飛び込んできた。
そして、仏像が座禅をくむ、その足元の異様な光景にわたしは絶句した。
「な、なにあれ」
まるで、繭のような不気味な物体がそこにはある。
わたしは、ゆっくりとそこへと向かう。
「ようこそ、我が世界へ」
繭のように見えたものは、四隅に棒がたてられた畳一畳ほどの空間に、白い紐を張り巡らせたものだった。
そして、その紐が張り巡らされた空間の中には、銀色の着物を着た白髪の美しい少女が座っていたのだ。
凛とした佇まい。
芯の強そうな眼差し。
まるで、月のような銀色に輝く瞳でわたしをじっとみつめている。
落ち着き払った彼女からは、一切の悪意が感じられない。
「あの、あなたは?」
彼女は、わたしをじっと見つめたまま、静かに話し始めた。
「本来ならば、そなたは、紫の世界を消滅させたのちにここへ来るはずだった」
「え」
「しかし、例外とは、常にあるものだ。だが、一度、紫の世界の消滅に失敗している以上、残された時間はあまり無い」
全てを知っているかのような彼女の口ぶり。
彼女は、この世界のどこまでを知っているというのか。
「貴様の心に乱れが生じておる。貴様の色に、濁りが見える。その濁りとは、恐怖か」
「恐怖」
そう、彼女の言う通り、わたしは恐怖している。それは、紛れも無い事実である。
あの紫の世界で出会った、あの凶悪な存在に。
わたしは、彼女に敗れ去ったのだ。
「あきらめるには、まだ早いのではないか?まだ、貴様はあやつに敗れたわけではない」
彼女は、わたしの目をずっと、見つめている。
まるで、心を読まれているかのよう。
わたしが思っている事を口に出さなくても、心を読んで、彼女はその答えを口にするのだ。
「近い将来、貴様はあやつとの戦いに、再び身を投じる事になるだろう。それは、けして逃れられぬさだめ」
たしかに、わたしはあの屈折した少年の魔手から、七咲さんを助けなくてはならない。
いつまでも、見て見ぬふりをしているわけにはいかないのだ。
あの紫の世界に怯え、逃げ続けていてはいけないのだ。
あの世界を消滅させる事で、七咲さんを救いだせるはず。
これまで、そうだったように。
「でも、また、あの世界へいく自信がもてないんだ」
わたしは、つぶやいた。
「そうだな。今の貴様では、あやつには到底かなわぬな」
「じゃあ、どうすれば」
「まあ、そう焦るな。我についてくるがよい」
彼女は、白い紐が張り巡らされた中で、ゆっくりと立ち上がった。
しかし、その後、しばらく立ったまま黙り込んだ。
「どうかしたの?」
「ちと待て」
「は?」
「いいから、黙って待てと言っている!」
足がしびれたんだな、絶対。
「も、もう大丈夫だ。それと、悪いが、そのだな、ちと手を貸してはくれぬか?」
少し恥ずかしそうに、少女は言った。
「え、あ、はい?」
わたしは、彼女に、そっと手を差し伸べる。
「よいしょっと、ふう」
彼女は、わたしの手を取ると、張り巡らされた白い紐をまたいで、その外へと出るのだった。
「ひとりで出られないわけ?」
「ま、まぁ、出る必要もなかったからな」
少女は、頭を抑えながら言う。
「で、いったいこの紐は何か意味があるわけ?」
「これは結界だ。白い紐を張り巡らせる事で結界を張っておる。結界とは、さまざまな方法があるが、外部からの影響を受けぬ空間を作り出す事を言う」
「外部からの影響って?」
「この結界の中にいれば、彼女の苦しみの感情により、我が苦しむ事はない。しかし、ひとたび出れば、このありさまだ」
少女が、頭を抑えているのは、彼女の苦しみを感じ取っているせいだったのだ。
「大丈夫?」
「心配は無用だ。では、ゆくぞ」
わたしは、前を歩く少女についていく。
腰まである長い白髪を眺めながら、わたしは思っていた。
彼女は、きっと信頼できる。
わたしは、彼女の不思議な魅力に憧れを抱きつつある。
しかし、そんな憧れは後に完全に裏切られる事になるのだけれど。
「ここだ」
辿り着いた先にあった古い木の扉には、まるで何か邪悪なものを封印しているかのように、数え切れない程のお札が貼られている。
禍々しい雰囲気の扉を前に、わたしは身動きひとつ取れなかった。
わたしにもわかる。
この先がいかに危険に満ちているか、が。
この扉の先から、わたしは感じ取っているのだ。
異様なまでの邪悪なる波動を。
「開けるからな」
高まる緊張。
わたしは、息を飲んだ。
そして、厳重に封印されたその扉が少女の手によって開かれたのである。
「こ、これは!?」
そこは、六畳程の広さの部屋。
そこにある本棚には、びっしりと本が並んでいる。
この世界に関する書物だろうか?
いや、違う。
少女たちの秘密のあそび?
さらには、ガラスケースに飾られた美少女フィギュア。
しかも、露出度の極めて高いものばかり。
「な、なにこれ」
「ま、まちがえた!」
少女は、顔を真っ赤にして、扉を閉めた。
なんだったの、今の部屋。
「な、なんだ、貴様のその目は。我を蔑むような目で見るでないわ!」
ただの趣味の部屋だったようだ。