Seventh Heaven
「こっちだ!」

少女は、今開けたすぐ隣の扉に手を伸ばした。
この扉には、お札は貼られていない。
あれだけ派手に封印して、差別化されているのに、開ける扉を間違えるなんて、この子普通じゃない。

それに、どう考えてもレズ。いや、やめておこう。
わたしの淡い憧れは、一瞬にして消失するのだった。

それにしても、この世界にきてからというもの、そんな人ばかりだ。
あまり、深く関わらない方が身のためだ。
わたしまで、毒されてしまう。

「それにしても、貴様は、くちづけ、キス、接吻というものをしたことがあるか?」

少女は、わたしに背を向け、扉に手をかけたままで言う。

「は、はあ?」

「あるのかないのか、どちらなのだ!」

「なんで、そんな事答えなきゃならないの。その質問に、何か意味があるの?」

「あ、ある!この扉の先に進む為に、必要な問いである!」

「…ふーん。まあ、お父さんとか、お母さんとしかないけど」

なんだか、怪しいけど、隠す事でもないだろう。わたしは、正直に答えた。

「貴様!それならば、まだ生娘なのだな!」

「う、うるさいわ!どうせ、カレシいない歴15年ですよ!」

「なあ、どうだ?ちと、試してみないか?」

「な、なにを?」

「あ、あのだな、そのだな」

「それ以上言うな!ちょ、ちょっと、あんた、怖いんだけど!」

「うつけめが!なにを取り乱しておる!そなたの心に、よこしまな気持ちがないか試しただけであるわ!」

いや、絶対違う。
こいつは、確実にわたしを狙っている。

「なんだ、その目は。この扉の先は、ひとたび、よこしまな者が入れば、一瞬にして心を失う事になるのだぞ!」

よこしまな者。
自分の事でしょ、それ。

「では、開けるからな」

そして、彼女は扉をゆっくりと開けた。

「な、なにこれ!」

そこは、ただ、何もない真っ黒の世界だった。
本当に何もない。
わたしと、少女以外に存在するのは、今開けた扉のみである。

「ここは?」

「この世界の裏側だ」

「裏側?」

「そう、この世界は所詮張りぼてのようなもの。目に見えるところだけ、それも適当に創られた世界だ」

「七咲さんによって、創られた世界」

「そうだ」

「あなたはいったい。あなたは今まで出会ってきた真紅達とは、どこか違う感じがする」

「誰もが、時として与えられる役割、演じるべき役柄は変わるものだ。我は、貴様を導く為に存在する者」

「導くって、どこへ」

「真実に、だ」

「真実?」

「先にも言ったが、この世界は、彼女により創造されたものだ。彼女にだけ、その存在が許された世界であり、現実とは異なる世界」

わたしは、本当はわかっていた。
この世界は、現実ではなく、本当は現実には存在しない世界なのだと。

そして、真紅達も本当は。

「そして、同様に、我々、6つの色を与えられし存在も、彼女によって創り出されたものだ」

やめて、それ以上は聞きたくない。

この世界と同じように、本当は存在しないのではないか。

わたしは目をそらしてきた。
けれど、今少女がくちにした事は、わたしが目をそらしてきた真実だった。

しかし、それを信じてしまったら、彼女たちが本当は存在していないことを認めることになってしまう。

違う。

真紅達は、そんなのじゃない。
自分の意思をもって、あの世界で生きていて、わたしと通じ合っていたんだ。
彼女たちは、わたしの大切な仲間。友達なんだ。

存在しないはずがない。

わたしは、真紅と命をかけた戦いの果てに心から通じ合えた。
そして、いつも、真紅はわたしに隠れて、わたしを見守ってくれていた。

緑夢もそう。
最初は、ひどいやつだと思ったけど、本当は無邪気ないいやつで、たまにわたしをレズビアン扱いしてくるけど、本当はいいやつなんだ。
たまに、わたしをレズビアン扱いしてくるけど。でも、本当は。でも、たまに。

それと、かなもわたしによくなついてくれてるかわいい女の子で、これからもっと仲良くなれたはずなんだ。

「そんなはずはない!みんなが創られた存在だなんて、わたしは信じない!あなただって、そう!今ここに存在している!」

「ああ、この創られた、限られた世界でのみな」

「そんな悲しい事、言わないで!みんな、わたしの大切な仲間なの!いま、ここにいる。それだけでいい!それだけが存在している証拠でしょ!」

「やめろ!それ以上、深く考えるな!壊れてしまうぞ!」

「真紅も、緑夢も、かなも、わたしの大切な仲間!」

「このままでは、心が濁ってしまう!」

頭が痛い!頭が割れてしまう!

「我が瞳をみるのだ!」

彼女は、慌てたように、わたしを抱き寄せると、強く抱きしめた。

あ、すごく、落ち着く。

「さあ、我が瞳をみるのだ」

彼女の銀色の瞳をみつめているうちに、心地よいあたたかさに包まれ、いつの間にか、わたしは意識を失ってしまうのだった。
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