Seventh Heaven
一面が真っ赤に染まった世界。
わたしは、今、赤い瞳の少女と戦っている。
「このまま、殺してあげますから!」
このまま、わたしは殺されてしまうの?
ひびの入った刀でわたしは、赤い瞳の少女の突きを必死に押し返そうと試みる。
しかし、 赤い瞳の少女は、わたしの額を貫こうと、物凄い力で剣先を押し込んでくる。
つばぜり合いは続く。
「く!」
「ふふふ!」
お互いに一歩も引けない命の駆け引きが続く。
押しては押し返される状態。
時間にすれば、わずか五分たらずの時間なのに、まるで時が止まったかのように、その時間があまりにも長く感じられた。
わたしと少女の力は、拮抗している。
しかし、わたしは徐々に少女の力に押し込まれてゆく。
ひびが入り、脆弱となった刀身では、力の全てを伝えきれない。
このままでは、負ける。
わたしは、ふいに少女の赤い瞳を見た。
まさに、その瞳は深紅。
あまりにも美しい真紅の瞳。
しかし、覗き込めば、その瞳には、果てしなく深い闇が広がっているのがわかる。
わたしは、その瞳から視線を外せなくなっていた。
「私の目に何が見える?」
わたしは、少女の真紅の瞳に吸い込まれつつあった。
時が止まったかのような空間で、見つめ合うわたしと赤い瞳の少女。
その顔は、気付けば、数センチの距離にまで近づいていた。
「な!?」
見える…。
七咲さんが、衿奈に虐げられている姿が。
そして、衿奈を惨殺する七咲さんの姿が。
聞こえる…。
七咲さんの悲痛な叫び。
心の悲鳴が。
そして、助けを求める声が。
許さない…。
殺してやる…。
殺せ…。
少女の瞳を通じて、わたしの中に流れ込んでくる、この強い怒りの感情は、七咲さんのものなの?
どうして?
「壊してあげますよ、今すぐに」
唇と唇は、もはや触れ合う寸前。
「このォッ!」
少女の言葉で、我に返ったわたしは、最後のちからを振り絞り、刀をかちあげた。
砕け散る日本刀の刃先。
「く!」
同時に、少女のレイピアはその手から離れ、宙に舞った。
少女が、宙から落下するレイピアを手に取るまでに攻撃すれば、勝てる。
やるなら、今しかない。
刃先が砕け散り、刀身にひびが入っていても、この最後の一撃を放てば、確実に少女を殺すことができる。
そう、七咲さんは、この赤い瞳の少女を殺せと言っているんだ。
「うああああああああッ!」
迷いを振り切るように、わたしは叫んでいた。
しかし、気が付けば、わたしは刀を投げ捨てていた。
殺せない。
「何のまねですか、それ!」
わたしに詰め寄る少女。
「何してるんですか。情けのつもり!?殺すなら、さっさとしてくださいよ!」
少女は激昂する。
「いや、殺さない」
「憎いんじゃないんですか!」
少女は、剣を振るう。
「憎しみ!憎しみだけが生きる根源!」
剣先は、わたしの鼻先で止まる。
「世の中の不条理!あなたは、それを受け入れられるというの!怒りこそが唯一、人を突き動かす!だから、怒りのまま、殺せばいいんです!」
少女は、レイピアを放り棄てると、わたしの肩をつかんだ。
「怒りに身を任せるんですよ!そうやって、殺してやればいい!」
「いや、それじゃだめなんだよ…」
「はぁ?意味わかりませんよ!」
そう、怒りに身を任せ、すべてを破壊したとしても、そこに何が残るんだろう。
-今度こそ、許してあげて…。-
わたしは、叫んでいる最中、思い出したんだ。
どこで聞いたのか、いつ聞いたのか、誰から聞いたのかは思い出せないけれど、たしかに覚えてる。
その言葉を。
わたしは、その言葉に従ったんだ。
「わたし、許すよ」
「はあ?」
「君の事、許すよ」
わたしは、赤い瞳の少女を抱きしめた。
「ちょっと、何するんですか!やめてくださいよ!」
体を激しく動かして抵抗する少女を、わたしはただただ、強く抱きしめる。
わたしのちからでも、折れてしまうんじゃないかと思うくらいに華奢なこの少女の細い身体のどこにそんな憎しみという闇が詰まっているというのだろう。
「はあ?頭おかしいんじゃないんですか!?許す?その感情を?許せるはずがないじゃないですか!」
「君は…どうすれば許せるんだろう」
「殺す!殺さなくちゃ許せない!」
「違う!最初から、君はわたしを殺す気なんてなかった!わたしに殺されようとしてただけ!」
「離して!早く、離してくださいよ!希望通り、殺してあげますから!」
「それなら、剣を捨てたのはどうして!あの時、わたしを殺す事ができてたはずなのに!本当はもう、君は…」
「違う!違う!違う!」
赤い瞳の少女は、泣きじゃくりながら否定する。
「なんか、素直じゃなくて、めんどくさいな、この子」
「はあ!?それ、こっちのセリフなんですけど!」
「わかった!じゃあ、こうしよう。わたしの名前は、なゆた。君はわたしの友達」
「はあ???」
「君は名前が無いんだったよね。だから、わたしが名前を付けてあげるよ」
「名前?そんなもの!」
「…真紅」
わたしは、少女の耳元でそっとささやく。
「しんく…」
わたしが真紅と名付けた少女は、わたしをじっとみつめている。
その瞳からはは、さっきまでの殺意は消えているように見えた。
か、かわいい…。
美少女っていうのは、こんな女の子の事を言うんだろうな。
わたしもこんなふうになりたい…。
「な、なに顔赤くしてるの!ちょっと!気持ちワルイんですけど!」
真紅は、赤面して顔をそらす。
「ち、違う!そういうのじゃないって!」
「もう殺る気なくなっちゃったじゃないですか」
慌てふためくわたしの隙をついて、真紅はわたしから離れた。
それにしても、真紅の今のセリフ、どこかで…?
「もう戦わなくてもいいんだよね?」
わたしは、真紅の肩に手を置く。
「また!なれなれしく触らないでくださいよ!触り方、気持ち悪いし!」
真紅は、わたしの手を振り払う。
「だから、違うってば!」
なんだか、わたし、すっかり、レズビアン扱いされてる?
「勘違いしないでください。あなたがわたしを許しても、わたしはまだ、すべてを許せたわけじゃありませんから!」
真紅は、プイッと顔を横に向ける。
「でも、名前…。ありがとう…」
「えっ?」
「なんて言うわけないでしょ!フーンッ!」
まるで煙のようにその場から、真紅は姿を消してしまったのだった。
真紅は一体、どこへ?
そんな時だった。
わたしを、激しい頭痛が襲う。
いつもと同じ、あの頭痛である。
今は、その頭痛が心地良く感じる。
わたしは、静かにまぶたを閉じた。
わたしは、今、赤い瞳の少女と戦っている。
「このまま、殺してあげますから!」
このまま、わたしは殺されてしまうの?
ひびの入った刀でわたしは、赤い瞳の少女の突きを必死に押し返そうと試みる。
しかし、 赤い瞳の少女は、わたしの額を貫こうと、物凄い力で剣先を押し込んでくる。
つばぜり合いは続く。
「く!」
「ふふふ!」
お互いに一歩も引けない命の駆け引きが続く。
押しては押し返される状態。
時間にすれば、わずか五分たらずの時間なのに、まるで時が止まったかのように、その時間があまりにも長く感じられた。
わたしと少女の力は、拮抗している。
しかし、わたしは徐々に少女の力に押し込まれてゆく。
ひびが入り、脆弱となった刀身では、力の全てを伝えきれない。
このままでは、負ける。
わたしは、ふいに少女の赤い瞳を見た。
まさに、その瞳は深紅。
あまりにも美しい真紅の瞳。
しかし、覗き込めば、その瞳には、果てしなく深い闇が広がっているのがわかる。
わたしは、その瞳から視線を外せなくなっていた。
「私の目に何が見える?」
わたしは、少女の真紅の瞳に吸い込まれつつあった。
時が止まったかのような空間で、見つめ合うわたしと赤い瞳の少女。
その顔は、気付けば、数センチの距離にまで近づいていた。
「な!?」
見える…。
七咲さんが、衿奈に虐げられている姿が。
そして、衿奈を惨殺する七咲さんの姿が。
聞こえる…。
七咲さんの悲痛な叫び。
心の悲鳴が。
そして、助けを求める声が。
許さない…。
殺してやる…。
殺せ…。
少女の瞳を通じて、わたしの中に流れ込んでくる、この強い怒りの感情は、七咲さんのものなの?
どうして?
「壊してあげますよ、今すぐに」
唇と唇は、もはや触れ合う寸前。
「このォッ!」
少女の言葉で、我に返ったわたしは、最後のちからを振り絞り、刀をかちあげた。
砕け散る日本刀の刃先。
「く!」
同時に、少女のレイピアはその手から離れ、宙に舞った。
少女が、宙から落下するレイピアを手に取るまでに攻撃すれば、勝てる。
やるなら、今しかない。
刃先が砕け散り、刀身にひびが入っていても、この最後の一撃を放てば、確実に少女を殺すことができる。
そう、七咲さんは、この赤い瞳の少女を殺せと言っているんだ。
「うああああああああッ!」
迷いを振り切るように、わたしは叫んでいた。
しかし、気が付けば、わたしは刀を投げ捨てていた。
殺せない。
「何のまねですか、それ!」
わたしに詰め寄る少女。
「何してるんですか。情けのつもり!?殺すなら、さっさとしてくださいよ!」
少女は激昂する。
「いや、殺さない」
「憎いんじゃないんですか!」
少女は、剣を振るう。
「憎しみ!憎しみだけが生きる根源!」
剣先は、わたしの鼻先で止まる。
「世の中の不条理!あなたは、それを受け入れられるというの!怒りこそが唯一、人を突き動かす!だから、怒りのまま、殺せばいいんです!」
少女は、レイピアを放り棄てると、わたしの肩をつかんだ。
「怒りに身を任せるんですよ!そうやって、殺してやればいい!」
「いや、それじゃだめなんだよ…」
「はぁ?意味わかりませんよ!」
そう、怒りに身を任せ、すべてを破壊したとしても、そこに何が残るんだろう。
-今度こそ、許してあげて…。-
わたしは、叫んでいる最中、思い出したんだ。
どこで聞いたのか、いつ聞いたのか、誰から聞いたのかは思い出せないけれど、たしかに覚えてる。
その言葉を。
わたしは、その言葉に従ったんだ。
「わたし、許すよ」
「はあ?」
「君の事、許すよ」
わたしは、赤い瞳の少女を抱きしめた。
「ちょっと、何するんですか!やめてくださいよ!」
体を激しく動かして抵抗する少女を、わたしはただただ、強く抱きしめる。
わたしのちからでも、折れてしまうんじゃないかと思うくらいに華奢なこの少女の細い身体のどこにそんな憎しみという闇が詰まっているというのだろう。
「はあ?頭おかしいんじゃないんですか!?許す?その感情を?許せるはずがないじゃないですか!」
「君は…どうすれば許せるんだろう」
「殺す!殺さなくちゃ許せない!」
「違う!最初から、君はわたしを殺す気なんてなかった!わたしに殺されようとしてただけ!」
「離して!早く、離してくださいよ!希望通り、殺してあげますから!」
「それなら、剣を捨てたのはどうして!あの時、わたしを殺す事ができてたはずなのに!本当はもう、君は…」
「違う!違う!違う!」
赤い瞳の少女は、泣きじゃくりながら否定する。
「なんか、素直じゃなくて、めんどくさいな、この子」
「はあ!?それ、こっちのセリフなんですけど!」
「わかった!じゃあ、こうしよう。わたしの名前は、なゆた。君はわたしの友達」
「はあ???」
「君は名前が無いんだったよね。だから、わたしが名前を付けてあげるよ」
「名前?そんなもの!」
「…真紅」
わたしは、少女の耳元でそっとささやく。
「しんく…」
わたしが真紅と名付けた少女は、わたしをじっとみつめている。
その瞳からはは、さっきまでの殺意は消えているように見えた。
か、かわいい…。
美少女っていうのは、こんな女の子の事を言うんだろうな。
わたしもこんなふうになりたい…。
「な、なに顔赤くしてるの!ちょっと!気持ちワルイんですけど!」
真紅は、赤面して顔をそらす。
「ち、違う!そういうのじゃないって!」
「もう殺る気なくなっちゃったじゃないですか」
慌てふためくわたしの隙をついて、真紅はわたしから離れた。
それにしても、真紅の今のセリフ、どこかで…?
「もう戦わなくてもいいんだよね?」
わたしは、真紅の肩に手を置く。
「また!なれなれしく触らないでくださいよ!触り方、気持ち悪いし!」
真紅は、わたしの手を振り払う。
「だから、違うってば!」
なんだか、わたし、すっかり、レズビアン扱いされてる?
「勘違いしないでください。あなたがわたしを許しても、わたしはまだ、すべてを許せたわけじゃありませんから!」
真紅は、プイッと顔を横に向ける。
「でも、名前…。ありがとう…」
「えっ?」
「なんて言うわけないでしょ!フーンッ!」
まるで煙のようにその場から、真紅は姿を消してしまったのだった。
真紅は一体、どこへ?
そんな時だった。
わたしを、激しい頭痛が襲う。
いつもと同じ、あの頭痛である。
今は、その頭痛が心地良く感じる。
わたしは、静かにまぶたを閉じた。