一年の華




***


「みーことっ。」

ベッドに座って俯いていると、ドアから声が聞こえた。

顔を上げると、顔だけ出してこちらを見る翔がいる。

「入っていい?」

「うん。」

微かな笑みを浮かべながら近づいてきた翔は、私の隣に腰をおろした。

「…ったく…。滅多に未琴は泣かないから、今日は驚いたよ。もう落ち着いた?」

「ありがと。」

私の言葉に頷くと、翔は両手で私の顔を包んだ。

「何があった?」

「……ちょっと…ね。」

いつもは何でも話せるのに、今日は何故か言いたくない。

翔は溜め息をつき、顔を包んでいた手でポケットから何かを取り出した。

「さっき、世界旅行から帰ってきた兄貴に貰った土産。旅が長すぎて何処で買ったか忘れたらしいけど、一つだけ願いが叶うらしいよ。」

それは、緑や青の石で彩られた小さなお守りのように見える。

窓からの光が石を通り、それが乗っている翔の手の平がキラキラと光っている。

「綺麗…。」

「だろ?」

翔はそれを私の手に乗せた。

「未琴にやるよ。何か願ってみれば?」

「例えば?」

「…家族円満…?」

「どこの大黒柱?」

私がクスッと笑うと、翔は微笑みながら私の髪を一回撫でた。

「真面目な話、本当に願い事無いのか?」

「……。」

願い事を言うのは躊躇われた。

絶対に叶わないからだ。

そして、絶対に叶わないからこそ願いたい。

「私は…普通に……普通の人間になりたい。」

自分の手の上を見つめ、五年前のことを思い出す。

あの時も私は、月を眺めて願った。





『普通の人間になりたい。みんなの記憶から消えたくない。』






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