一年の華
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図書室に入った俺は、棚に向かって本の背表紙を眺めている佐々木さんを見つけた。
「佐々木さん。」
ゆっくりと顔をあげた佐々木さんは、俺の顔を見て体をこちらに向けた。
「寺岡くん。」
声を聞いたのは初めてだったが、意外に思ったことを顔には出さず笑いながら話した。
「さっき、アキトがごめんね。迷惑かけちゃって。」
佐々木さんは静かに首を振りながらクスッと笑った。
「あいつとは幼稚園のときから一緒なんだけどさ、昔から宿題とかはやんないの。」
俺は棚から本をとってパラパラとページを捲った。
「何回も親にも先生にも怒られてんのに、本人は全然懲りないんだよ。」
しょうがないよな、と心の中で溜め息をつくと、一冊の本を持ってカウンターに向かいかけた佐々木は、顔を半分こちらに向けながら言った。
「でも村瀬くんなら、いざ助けがいなくなったら自分でできそうだよ。やらなきゃいけないことはちゃんと自分でわかってると思う。」
「……そう…かもね。」
佐々木さんはすぐにカウンターへ行ってしまったが、俺はそんな彼女の背中に初めて心から笑顔を向けた。