一年の華



***


図書室に入った俺は、棚に向かって本の背表紙を眺めている佐々木さんを見つけた。

「佐々木さん。」

ゆっくりと顔をあげた佐々木さんは、俺の顔を見て体をこちらに向けた。

「寺岡くん。」

声を聞いたのは初めてだったが、意外に思ったことを顔には出さず笑いながら話した。

「さっき、アキトがごめんね。迷惑かけちゃって。」

佐々木さんは静かに首を振りながらクスッと笑った。

「あいつとは幼稚園のときから一緒なんだけどさ、昔から宿題とかはやんないの。」

俺は棚から本をとってパラパラとページを捲った。

「何回も親にも先生にも怒られてんのに、本人は全然懲りないんだよ。」

しょうがないよな、と心の中で溜め息をつくと、一冊の本を持ってカウンターに向かいかけた佐々木は、顔を半分こちらに向けながら言った。

「でも村瀬くんなら、いざ助けがいなくなったら自分でできそうだよ。やらなきゃいけないことはちゃんと自分でわかってると思う。」

「……そう…かもね。」

佐々木さんはすぐにカウンターへ行ってしまったが、俺はそんな彼女の背中に初めて心から笑顔を向けた。

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