一年の華
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ある夜、紺の上品なワンピースをきた美しい娘が、腰まであるストレートの黒い艶やかな髪を揺らしながら一つの部屋に向かっていた。
部屋の入り口に立ち、ノックをする。
「お父様。千鶴です。」
「入れ。」
部屋に入った娘は、ソファで寛ぐバスローブ姿の父に近付いた。
普通の人間ならば、男にも関わらず体全身から醸し出す色気と美しさにやられているところだ。
「未琴のことでお話が。」
娘の焦った態度を見てただ事ではないと感じ取った父は、右手に持っていたワインをテーブルに置き、向かいのソファに座るよう娘に促した。
「どうした?」
「未琴が紅榴(くりゅう)家以外の人間と親しくしているのを見ました。校門で二人は別れましたが、校内でも接触しているのだと思います。相手は男。これ以上親しくなる前に手を打たねば…。」
「千鶴。お前は未琴の良い姉だが、そこまで心配することは無いんじゃないのか?昔のことならお前のせいじゃない。責任を感じなくても…。」
「確かに責任は無意識に感じているのかもしれません。でも…それだけじゃない!私はその後も懲りずに自分の恋人を作って傷付いた!これ以上近付いてはダメだと思った時にはもう遅かった!離れられなかった!だから…!」
娘の苦しそうな表情を見た父は、かつて千鶴が傷を負う前の笑顔を思い出した。
無言の父を見た娘は、立ち上がって父を見据えた。
「お父様、カケルを呼び戻してください。お父様が呼ばないと言うのであれば、私が自分で連絡をとります。」
父の答えは先ほどの娘の言葉で既に決まっていた。
「カケルを呼ぼう。未琴のために。」
「明日……いえ、今晩にでも。」
「ああ。」