きれいな恋をしよう
 妹がおれの視線に気づいていった。

「ああ、その本つまらなかった。挫折した。途中だけどもう返すよ」

「そうですか。おまえさ」

「ん?」

「なんか楽しそうだね」

「楽しいよ。ニヤけそう」

「……」

 ニヤけてるよ。

 おれは台所へ行くと、コップの中の色水を氷ごと流しに捨てて、軽くすすいだだけでコップを食器桶に立てた。
 妹に早く寝ることを促し、自分の部屋へ入った。
 主人がいないあいだ窓を閉め切っていた部屋は見事に熱気がこもって、直射日光じゃない分、たちわるくおれのからだにまとわりつくように感じられた。

 おれはクーラーのリモコンをつかむと、電子ちゃんに叱られそうな温度に設定した冷房のスイッチを入れ、敷きっぱなしになっている布団に寝転んだ。
 汗で布団が背中にくっつく感触があった。
 おれは瞬時にシャワーに入っていないことを後悔したが、いまから1階に降りるのも面倒なのでそのまま目を閉じた。
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