きれいな恋をしよう
 …いま思うと、あの日の時点でフミオは恋をしていたんじゃないのか。
 なんとなく、そう思わせる節がいくつかあった。
 たとえば、たった20分のそのライヴのためにわざわざバイトを休んだことだってそうだし、ふたりのまえでフミオが猫かぶってんだか妙〜におとなしかったことだってそうだ。

 もちろん、だからといってなに、ということはないけど。

「やー、マジでかわいいわ、麻井さん」

「へぇ」

「……おまえ、ちゃんとおれの話聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」

「《いっぱい》の《い》を《お》にかえてみな」

「おっぱい」

「ちょっとあたま使えよ」

 フミオがおれのあたまをこづいた。すこしだけ目が覚めた。
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