【完】幼なじみのあいつ
「約束…、破ったよね。何で?」
その言葉にビクッと身体を震わせながら、伺うように上目遣いで翔ちゃんを見る早紀ちゃん。
しかしあまりにも怖い顔をしている翔ちゃんを見て、すぐに下を向いてしまった。
「…ごめんなさい。もうしないから許して?」
「…約束通りもう金輪際、俺には近づくな」
その言葉に早紀ちゃんはボロボロと涙を零し、翔ちゃんに縋りついた。
しかし翔ちゃんは早紀ちゃんを抱きしめようともせず、ただ冷たく見下ろしているだけ。
あんなに甘く蕩けるように早紀ちゃんを見ていた翔ちゃんが、今はもう見る影もない。
二人の間で一体何があったのかは分からない。
でもどうしてここまで、二人の間はこじれてしまったのだろうか?
「…だって、私の事全然見てくれないんだもの。…お願い、私の事見て。私の事、好きだったでしょ?」
涙で濡れた早紀ちゃんは、必死に翔ちゃんに訴える。
しかし翔ちゃんは早紀ちゃんの言葉に、表情を歪ませるだけ。
「…そうだな、好きだったよ。凄く好きだったけど、ごめん。もう早紀ちゃんとは付き合えない」
ヒュッと喉を鳴らす早紀ちゃんが、次の瞬間にはその場を走りさってしまった。
悲しそうに翔ちゃんを見つめる早紀ちゃんの顔が、今だ私の脳裏から離れない。
翔ちゃん、本当にこのままでいいの?
別れたって、どう言う事?
今、追いかけないと早紀ちゃんとはもう、やり直せなくなるよ?
そう言おうとしたところで、亮ちゃんが私に手を差し伸べてくれた。
その手を取り立ち上がった私のボサボサになった髪の毛を、手櫛で優しく綺麗に梳かしてくれる。