ツレない彼の愛し方【番外編追加】
「綾乃さんと結婚するって聞いて…辛かった」
早瀬の胸に納まったまま、私のくぐもった涙声。
「うん」
私の背中に添えられた大きな手。
「綾乃さんと腕組んでるの見て嫉妬した」
綾乃さんに向ける私の知らない笑顔も心が壊れそうなくらいせつなかった。
「うん」
背中をそっと撫でられる。
「いつか電話したとき社長の電話に綾乃さんが出て…シャワー浴びてるって言われてホントに辛かった」
ああ、そう言う関係だったんだって絶望的になった夜。
「はっ?いつだよ、それ。アイツの前でシャワーなんて浴びてない」
一瞬、背中の手が離れていく。
「責任感で私に優しくしてくれていたって言われた。だから勘違いしないでって」
綾乃さんの言葉が突き刺さった。
「責任を持ってお前の人生に関わって行きたいとは思ってる。けど勘違いなんてさせてない」
もう一度、背中に添えられた手がさっきよりも力強く私を包み込む。
「赤ちゃん、ひとりで産もうと思った」
もう早瀬が信じられなくて・・・
「うん」
トントンと心地良いリズムでその手は安堵を刻み込む。
「社長に迷惑がかかると思って遠くへ行こうとした」
逃げてしまおうと思った。
「うん…あれはまいった…」
もう一度、背中からギュと抱きしめる手。
「一人で…強くなろう、赤ちゃんのために頑張ろうって…」
早瀬と私を繋ぐ赤ちゃんだけは守ろうとしたの。
「うん…ごめんな」
更に力強く。
「もう…ダメかと思った…ひとりじゃ無理かもって」
でも・・・・
綾乃さんに産むなんて許さないと言われた時、本当にダメかもしれないと心が折れそうになった。
「俺が悪かった...悪かったよ、響。
もう、離さない。響をどこにもやらない」
苦しいくらいに早瀬が私を抱きしめた。
「お前が姿を消してしまった時、今まで味わったことのない辛さが襲って来た。もう逢えなくなるのが怖かった。それほどお前の存在が大きいって思い知った。
気が付くのが遅くてごめん。お前に甘えててごめん。
それから…俺たちの赤ん坊を守ってくれて...ありがとう」
その言葉に早瀬の顔を見上げた。
少し困ったような笑顔で私を見下ろす。
「響、一緒になろう。この子と俺のところに来てほしい」
そう言って、まだ膨らんでもいないお腹にそっと手を当てた。
「……っ」
「響?」
感動で言葉が詰まる。だからコクンと頷いて返事をすることが精一杯。
止めどなく溢れる涙。
その涙にそっとくちづけする早瀬。
くちづけは頬から唇の端に辿り着き、一度、離れて行った。
ジッと私をみつめる瞳が一瞬だけ揺れて、また私の唇に視線を落とす。
そっと唇をなぞった親指は、まだ溢れている涙をそっと拭う。
「泣き過ぎると赤ん坊も泣くぞ」
そう言いながら、優しい笑顔でまたくちづけをする。
軽く触れたり、キツく押し付けたり、啄むようにリップ音を立てたり、離れていた時間を取り戻すように甘く優しく強引に唇を奪われた。
その感触に酔いしれて早瀬を深く感じていたい。いつまでもこうしていたい…
早瀬の背中に回す手にギュッと力を入れる。
そうした瞬間、早瀬が突然スッと私を離し急になくなった体温をさみしく思う。
「えっ?」