ツレない彼の愛し方【番外編追加】


それに私が騒いでしまったせいで、周囲がザワザワしている。
我に返ったら恥ずかしくなって来た。


「とにかく送りますよ。さ、乗って。」


「じゃ、駅までお願いします。」


これ以上、拒んでも彼は引き下がらないだろう。
恥ずかしさもあって、その場所を離れるために車に乗せてもらった。
それに「綾乃」という名前がすごく引っかかったから。


「あの…最寄りの駅で下ろして下さい。」


横にいた垣内修二という男は私の言葉をまったく無視し、マークサイドホテルでいいかな?と呟いていた。


「えっ?ホテル!? やだ!降ろして!!!!なんでホテルなんですかぁぁぁ!!!!」


「僕の仕事場だからだよ」


そう言ってやわらかい笑顔を浮かべる。


「えっ?」


「名刺をちゃんと見て」


すると名刺の裏には吉澤コーポレーションのグループ会社やホテルが記されていて、その中にマークサイドホテルも並んでいた。
慌てふためいている私を見て、また笑ってる。


「あの…どうして…?あなたの仕事場に私が行く意味もわかりません。」


「綾乃は…僕の従妹。吉澤の社長と僕の母が姉弟なんだ。綾乃は昔、早瀬さんの同僚だったと聞いているよ。その頃からずっと彼が好きみたいで。」


綾乃の従妹という修二は、淡々と話をし始めた。
パウダールームでの出来事、パーティの挨拶時に絡めた腕、早瀬を見る艶かしい瞳。
綾乃さんが早瀬に好意を持っていることなんてすぐにわかった。


「可愛い従妹のために応援したい気持ちがあるんだけど…。早瀬さんとなかなか進展しないって綾乃がぼやいていたんだ。それが今日のパーティでやっとわかったよ。早瀬さんにとってのキミの存在はだいぶ大きいみたいだね。」


何を話しているのか理解する間もなく話は進む。


「そこで相談なんだけど、早瀬さんと別れて貰えないかな?」


「えっ?社長と…別れる?」

単刀直入すぎて、しばらく理解すらできない。


「ま、付き合ってるって感じじゃなさそうだけど・・・

親密な関係には見える。大人のカンケイ?

でも将来のことは、何も決まってないみたいだし。」


親密な関係。身体だけの関係。
どこまでこの人は知ってるんだろう?何か調べてるの?
改めて言われるとなんて不安定な関係なんだろう。
将来のことって結婚?
今まで目を背けてきた。
早瀬に聞きたくても聞けない将来のこと。
聞いてしまったら、今の関係が終わってしまうと思うから。


乗った高級車は今どこを走ってるのか…運転している修二という男には目もくれず、流れる街の灯りを窓からぼんやりと見ていた。


しばらくすると車が停車し、ホテルの正面玄関に到着していた。
運転席から降りた部長がドアを開けてくれようとしたけど、その前に自分から降りてしまった。苦笑いしている部長に視線を合わせないように、前に停まって同じように車から客が降りてくるのを何気なく見た。
と同時に目を疑いたくなるような光景が飛び込んで来た。




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