ツレない彼の愛し方【番外編追加】


レストランに振り向く事もなく飛び出し、タクシーには乗らず、方向も考えないまま、ただひたすら歩いてしまった。
青山通りに出るつもりが、逆方向へと歩いてしまったのか、気が付くとゆるやかな坂を昇ってる。

「イタっ」

履き慣れないヒールがかかとを傷つける。本当に靴ずれしちゃったんだ。
すぐにタクシーを拾えば良かった。最悪…

タクシーを捕まえようと思ってるのに、通りで行き交う車をただ呆然と見ていた。
すると響の目の前に黒塗りの高級車が停まった。
ぼんやりと見ていると、運転席のドアが開き、中からひとりの男性が下りて来た。


「送りましょう。」


端正な顔立ちと仕立てのいいスーツが品の良さを物語ってる。
年齢も背の高さも早瀬と同じくらいだろうか。

自分の事じゃないと思い、その人の視線から外れようと横にズレた時、その男性は私に名刺を差し出した。


「えっ?私?」


驚きながら名刺を見ると、


『吉澤コーポレーション 部長 垣内修二』

と書いてあった。



「吉澤コーポレーション…部長…って、どうして?」


「先ほど、レストランから飛び出して行ったでしょ?すごく気になってね。 追いかけて来ちゃいました。」


追いかけちゃいましたって。この人、何言ってるんだろう。


「すみません。良く理解できないんですけど。」


「でしょうね。」

と、世の中の女性をすべてを落とせるんじゃないかと思うような笑顔を私に向けた。


「とにかく乗って下さい。 その足じゃ、歩くのはかわいそうだ。それに、セクシー過ぎて目立ちます。」

そう言って、自分のジャケットを私の肩に羽織らせた。


「大丈夫です。」

私がそのジャケットをいらないと言うと


「君は大丈夫でも、僕が気になる。」

なんて口のうまい人なんだろう。と、その男の顔を睨んだ。
しかし自分の着慣れていない姿を見ると無下に断れない。
慌ててレストランを出て来たために、ストールを忘れて来てしまったから、大きく開いた胸元が少し大胆すぎる。

それにしても初対面の人の車に乗るなんて、そこまでバカじゃない。


「知らない人の車に乗っちゃダメって、小さい頃から教わってるのでご遠慮します。」


その人は一瞬目をまんまるにして、すぐに大笑いしていた。
無邪気に笑うその顔は女性をどれだけ堕として来たのだろう?


「面白い人だね。じゃ、これから知り合いになりましょう。とにかく、ここじゃ何だから乗って下さい。」


と、半ば強引に車の中へ押し込まれそうになったから私は大騒ぎ。


「いや~!どこに連れていくの? 誘拐?拉致?いやーーーー!」


その男性は「やれやれ」と言う顔をしながら


「綾乃が君を傷つけたんじゃないかと思ってね。心配で追いかけて来たんだよ。」


綾乃…えっ?綾乃さんと繋がりのある人なの?
綾乃という言葉に固まった。



< 31 / 139 >

この作品をシェア

pagetop