かぐやの月
「あのさ・・・」
村のはずれの神社の境内で落ち着くと、銀次がやっと口を開いた。
「うん?」
「俺があんなことしたせいでおまえに迷惑かけてたらごめんな」
「迷惑じゃないよ。ありがと、心配してくれて」
「そか、よかった」
「私ね、銀ちゃんが来たときに『余計なことしないでっ!』って言いかけたでしょ。同情されたくないってカッとなったんだよね。記憶をなくす前の自分がどんなことを考えて生きていたかわからないけれど、多分こういう気持ちは以前の私が抱いていたもの」
「確かになー。前のおまえなら『余計なことするなっ!』って言うと同時に俺の顔引っぱたいていただろうな。今はなんつーか柔らかくなったっていうか」
「でも、今の私にはわかる。同情や哀れみじゃないんだってこと」
「つまり、あー、あ、愛情だっ」
また銀司の顔がうっすら赤くなっている。
「もしかして、好きってこと?」
「え?俺がかぐやのこと好きだって知らなかったわけ?」
かぐやがコクりと頷くので、銀司は顔を抱えて後ろへひっくり返った。
「嘘だろー・・・俺ら口づけしたの覚えてない?」
「いつ?さっきのこと?」
「さっきのは2回目、おまえが行方不明になる前にしただろーってそこも記憶喪失かよ」
かぐやの無言にさらに焦りが募る。
「婚約話が出てたのも覚えてないのか?」
かぐやは再び頷いた。