十一ミス研推理録2 ~口無し~
「なあ、プラマイ。俺、ドラマで見たんだけどさ。主犯が協力者に口止めしておきながら、早々に自白して協力者に罪をかぶせたって話。そんなことにならないか心配で……」
「謎の男が八木の母親に、罪をなすりつけるとか? それは絶対にないよ」
十一朗はワックスの心配事を一蹴した。
自殺を決めた男が、守ろうとした共犯者に罪をなすりつけるとは思えない。昨日の自分の推理にも自信があり、確信があった。
その時だ。
「東海林さーん!」という声が聞こえた気がした。裕貴とワックスを見ても動きはない。幻聴か。つかれが耳に出たらしいと思って、十一朗は聞き流す。
「くそがきー!」
すると、今度ははっきりと声が聞こえた。裕貴とワックスも顔をあげて十一朗を見る。
廊下に駆け出して窓から校門のほうに目をやると、貫野と文目の姿が校門近くにあった。どうやら、はじめの声は文目だったらしい。二度目の貫野の叫びで気づいたわけだ。
周囲の生徒の視線が気にならないのか、文目が大きく手を振っている。本当に大人なのだろうか。恥ずかしいことこの上ない。
十一朗は思わず頭を抱えてしまった。裕貴はというと応えるように手を振り返している。
「何で直接学校にくるんだよ……裕貴、応えるのやめろって。愛人と思われるぞ」
「それ、考えすぎじゃない? それに応えないと、いつまでも大声出されちゃうよ」
もう一度、あの声で「くそがきー!」と呼ばれたら堪らない。
慌てて十一朗は部室に戻ると、事件の概要を書き取っていたノートとペンを手にした。
「こなくてもいいよって言ってもくるんだろ?」
部室を出た瞬間に目が合った裕貴とワックスに声をかける。二人は真剣な眼差しを向けたまま、返事は言葉ではなく首を縦に動かした。
ミス研部員全員の意思はひとつだ。事件の真相が知りたい。綾花の母と綾花を救いたい。
悲しい事件を経験して解決した仲間たち。ミス研部員は友達や仲間以上の存在なのだ。それは十一朗だけが思っていることではない。裕貴もワックスも同じはずだった。
校舎別館の最上階にあるミス研の部室は、校内全体をみると校門に辿り着くまで時間が一番かかる場所といっていい。
貫野たちがいる校門に着くと、運動部数人が活動をとめて様子を窺う姿が見えた。
綾花が休み、そして中庭に向かっての十一朗の叫び。ミス研部は本日一番の注目株といってもいいだろう。更に得体の知れない大人も追加だ。気にしないほうがどうかしている。
大声で十一朗を呼んで、注目させたのは貫野のはずなのに、まるで野生動物のような鋭い眼光を向けて運動部員を睨みつけていた。
「どうして、学校に直接くるんだよ……」
二人の予想外の行動に呆れてしまったのが先で、言葉をオブラートに包むことはできなかった。
十一朗の言葉を聞いた貫野が、大きな息を吐いてから煙草の箱を取り出す。
「俺の苦労も少しは察しろ。個人行動しているんだ。他の奴らに見つかるのが嫌なんだよ」
貫野が言う他の奴らとは特命のことだろう。未解決の殺人事件を取り扱う警視庁特命捜査対策室に配属されるメンバーは、その事件捜査をしていたメンバーやベテラン刑事で構成されている。当然、捜査が継続されている事件を彼らは扱っていない。
そんな未解決事件が現在の事件に直結してしまった可能性がある。
貫野の言葉には、ある意味も含まれていて、十一朗はすぐに読み切った。
「その答えは、謎の男が十一年前の事件と関わりがあったってことでいいんだよな?」
「もう男じゃない。和田繁樹だ。十一年前の事件で重傷を負った男。八木彰夫の仕事仲間であり、現場に落ちていた万年筆の顧客リスト名にあった被疑者八木和歌子とも関係があると見ていい。互いの関係は否定してはいるけどな」
十一年前の事件と現在の事件の繋がりが見えてきた。そうなると次に注目すべき点は、十一朗が貫野に頼んだ和田繁樹への追及、誘導尋問の結果だ。
貫野は煙草に火を点けると、紫煙を弄ぶように途切れ途切れに吐き出した。
「謎の男が八木の母親に、罪をなすりつけるとか? それは絶対にないよ」
十一朗はワックスの心配事を一蹴した。
自殺を決めた男が、守ろうとした共犯者に罪をなすりつけるとは思えない。昨日の自分の推理にも自信があり、確信があった。
その時だ。
「東海林さーん!」という声が聞こえた気がした。裕貴とワックスを見ても動きはない。幻聴か。つかれが耳に出たらしいと思って、十一朗は聞き流す。
「くそがきー!」
すると、今度ははっきりと声が聞こえた。裕貴とワックスも顔をあげて十一朗を見る。
廊下に駆け出して窓から校門のほうに目をやると、貫野と文目の姿が校門近くにあった。どうやら、はじめの声は文目だったらしい。二度目の貫野の叫びで気づいたわけだ。
周囲の生徒の視線が気にならないのか、文目が大きく手を振っている。本当に大人なのだろうか。恥ずかしいことこの上ない。
十一朗は思わず頭を抱えてしまった。裕貴はというと応えるように手を振り返している。
「何で直接学校にくるんだよ……裕貴、応えるのやめろって。愛人と思われるぞ」
「それ、考えすぎじゃない? それに応えないと、いつまでも大声出されちゃうよ」
もう一度、あの声で「くそがきー!」と呼ばれたら堪らない。
慌てて十一朗は部室に戻ると、事件の概要を書き取っていたノートとペンを手にした。
「こなくてもいいよって言ってもくるんだろ?」
部室を出た瞬間に目が合った裕貴とワックスに声をかける。二人は真剣な眼差しを向けたまま、返事は言葉ではなく首を縦に動かした。
ミス研部員全員の意思はひとつだ。事件の真相が知りたい。綾花の母と綾花を救いたい。
悲しい事件を経験して解決した仲間たち。ミス研部員は友達や仲間以上の存在なのだ。それは十一朗だけが思っていることではない。裕貴もワックスも同じはずだった。
校舎別館の最上階にあるミス研の部室は、校内全体をみると校門に辿り着くまで時間が一番かかる場所といっていい。
貫野たちがいる校門に着くと、運動部数人が活動をとめて様子を窺う姿が見えた。
綾花が休み、そして中庭に向かっての十一朗の叫び。ミス研部は本日一番の注目株といってもいいだろう。更に得体の知れない大人も追加だ。気にしないほうがどうかしている。
大声で十一朗を呼んで、注目させたのは貫野のはずなのに、まるで野生動物のような鋭い眼光を向けて運動部員を睨みつけていた。
「どうして、学校に直接くるんだよ……」
二人の予想外の行動に呆れてしまったのが先で、言葉をオブラートに包むことはできなかった。
十一朗の言葉を聞いた貫野が、大きな息を吐いてから煙草の箱を取り出す。
「俺の苦労も少しは察しろ。個人行動しているんだ。他の奴らに見つかるのが嫌なんだよ」
貫野が言う他の奴らとは特命のことだろう。未解決の殺人事件を取り扱う警視庁特命捜査対策室に配属されるメンバーは、その事件捜査をしていたメンバーやベテラン刑事で構成されている。当然、捜査が継続されている事件を彼らは扱っていない。
そんな未解決事件が現在の事件に直結してしまった可能性がある。
貫野の言葉には、ある意味も含まれていて、十一朗はすぐに読み切った。
「その答えは、謎の男が十一年前の事件と関わりがあったってことでいいんだよな?」
「もう男じゃない。和田繁樹だ。十一年前の事件で重傷を負った男。八木彰夫の仕事仲間であり、現場に落ちていた万年筆の顧客リスト名にあった被疑者八木和歌子とも関係があると見ていい。互いの関係は否定してはいるけどな」
十一年前の事件と現在の事件の繋がりが見えてきた。そうなると次に注目すべき点は、十一朗が貫野に頼んだ和田繁樹への追及、誘導尋問の結果だ。
貫野は煙草に火を点けると、紫煙を弄ぶように途切れ途切れに吐き出した。