優歌-gental song-
声の主は夏樹君だった。

振り返れば、彼は教室の出入口のところに立っていた。


爽やかで明るい、自然な笑顔を携えている。


...さきほど、ぼくがこんな風に笑えたならどれだけ良かっただろう。


少し惨めに思った。



一方、クラスの皆は彼におはようと挨拶をしていく。


ぼくはそれをぼうっと眺めていた。


到底ぼくには有り得ない光景だと思いながら。


少し息を漏らして、ふと優歌さんに目をやると、彼女もまた夏樹君に挨拶をしていた。


ぼくの席からはよく聞き取れないけれど、二言三言、短い会話をしたようだった。


ぼくは少しいたたまれなくなって、目をそらした。



会話が終わり、夏樹君が自席に着いた後、もう一度優歌さんを見た。




ぼくは彼女を見て静かに目を見開いた。




同時に胸が引き裂かれそうなほど痛かった。




優歌さんは夏樹君を見ていた。


それはぼくを見るときよりずっと優しくて、穏やかで、可愛らしくて。


頬をほのかに赤く染めていた。


ぼくは、ほとんど確信していた。



優歌さんは、夏樹君のこと好きなんだ、と。




けれど


それでも。



ぼくは、この想いを。



捨てることなど、できるはずもなくて。



ただ、胸の痛みに耐えることしかできなかった。


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