禁断のプロポーズ
「ほんと、心にもないこと、平気で言いますね。

 楽しく呑める相手だと思ってたのに。

 今、私の顔、嫌いだって言ったじゃないですか」

「嫌いなんて言った?

 苦手だって言ったんだよ。

 どうしても、その顔だと気になってしまうから」

「……『あの人』って誰ですか?」
と訊いてみたが、克己は答えない。

「夏目を呼んじゃ駄目だよ。

 変に声出したら、……バラすよ」

 バラすって、やっぱり、専務のことだろうか。

 だが、夏目が姉の自殺と関係ないのなら、もうバラしても構わないような。

 智久との間に、克己が疑っているような怪しいことなんて、ひとつもない。

 ……いや、大体ない。

 いっそ、もう夏目さんに話してしまっても、と思ったとき、気づいた。

「えーと……

 克己さん、後ろ」
と克己の後ろを指差す。

 え? と克己が振り返る。

 障子に、昔話で出てきそうな影絵が映っていた。

 鬼婆が包丁を振り上げている。

 克己が固まった。

 ゆっくりと障子が開く。

 月明かりに輝く包丁を上に掲げ、夏目が立っていた。

 克己が悲鳴を上げる。

「お前っ。
 包丁はよせ、包丁はっ!」
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