禁断のプロポーズ
 一度、課長や部長になっておいて、ヒラに戻れと言われるのは辛い。

 出向させられるか。

 或る程度の退職金をもらって辞めていくのだろう。

 その方が後に残った後継者候補たちが、やりやすいからだ。

「会社の中って、戦国時代みたいですよねえ。

 足を引っ張ったり、自分の地位を脅かしたりしそうな身内なら、殺してしまった方がいい、みたいな」

「物騒なこと言わないでよ」
と言う桜は少し覇気がない。

 広瀬専務の心配をしているのかもしれないと思った。

「ところで、遠崎課長はどうやって私に連絡してくるつもりなんでしょうね。

 連絡先、知らないのに」

 確か、後で連絡するとか言っていたが、と思い出し、そう呟くと、桜は、

「知らないわよ。
 秘書室に内線でも……」
と言いかけ、はっとしたように腕を引っ張る。

「ちょっとっ。
 早く戻りなさいよっ。

 他の人間がその電話、受けたりしたら、また、どういうことかってごちゃごちゃ言われるわよっ」
と秘書室に戻ろうとする。

「あのっ。
 まだお弁当食べてませんよっ」

「なに呑気なこと言ってるのよっ」
と揉め始めたとき、給湯室のドアをノックする音がした。

「は、はい」
と桜が身構える。

 だが、ドアを開けるなり、陽気な声がした。

「やあやあ、お嬢さん方、こんにちは。

 新入りのお嬢ちゃんに伝言だよ。

 スマホ出して」

 顔を覗けるなり、そう言ったのは、克己だった。
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