禁断のプロポーズ
「その人は、派閥争いに負けてもう居ないんだが。

 前も専務についてたんだよ。

 あの爺さん、経費を使い込むわ、秘書の子に取引先の大事な情報もらすわ」

 ちょっと大変な人だった、と言う。

「秘書の子って、誰ですか?」

「もう辞めた人だよ」

 そのとき、ドアが開いて、桜が言った。

「早川伶奈よ」

「平山、盗み聞きは……」
と言いかける佐々木に、桜は、

「黙ってようと思ったんですけど。

 私、伶奈とは仲が良かったですが、あの件だけはゆるせなくて」

 きちんとしている桜だからこその台詞だろう。

「秘書としての仕事を履き違えて、チャラチャラ愛人をした挙句に、他所に情報を流すなんて」

 ああ、ごめんなさい、と桜はこちらを見て言った。

「……愛人か」
と呟き、

「佐々木さんは誰が誰の愛人なのかご存知なんですか?」
と未咲が訊くと、

「いやあ、知らないな」
と言う。

「莫迦ね、あんた。

 知ってても、知ってるって言うわけないじゃないの。

 私も幾つか知ってるけど。

 あんたにだって教えないわよ」
と言うと、佐々木が少しだけ笑うように、口許を動かした。
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