禁断のプロポーズ
 吹き出さないでいるのに苦労した、と佐々木は言う。

「いや。
 いつも淡々としてる専務が本気で言い返してるのがおかしくて」

「全然おかしそうに見えませんでしたが」

「顔に出ないたちなんだ。

 志貴島、専務の機嫌が悪くなられたら困るから、今日はさっさと帰って専務の家に行ってくれ」
と頼んでくる。

「えーっ。
 嫌なんですけどーっ」

「業務命令だ」

「残業代、出ないのに……」
と愚痴ってみたが、いつも自分の頓狂のせいで、佐々木たちに迷惑をかけているので、逆らえなかった。

「あ、私と専務は、なんでもないですからね。

 単に、入社前からの知り合いだというだけです」

「そうだな。
 男と女って感じはしないな」

 兄妹みたいな感じだ、と言う。

 いっそ、専務がお兄ちゃんならよかったな、と思っていた。

 ……借金もチャラになるし。

 と思うのは甘いだろうか。

「佐々木さんは、いつもあの人に振り回されて、やじゃないですか?」
と訊いてやると、

「いやあ。
 前の専務に比べたら」
と言ってくる。

「前の専務?」
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