禁断のプロポーズ
 思わず、
「聞いてないぞ」
と突っ込むと、まあまあ、と佐々木に宥められた。

 このぼんやり娘、夏目の前にも誰かいい相手が居たのか。

 聞いてない、と思った。

 ずっと面倒見てやってきたのに。

「専務、幼稚園のときの話かもしれないじゃないですか」

 未咲を完全に子供扱いしている佐々木は、まるで、子供の戯言だとでも言うように、流そうとする。

「いや、高校ですよ」

「ちょっと来い、未咲」

 高校なら、自分と出会ったあとのことかもしれないと思った。

 あんなに面倒見てやって、家族代わりでもあったのに、なにも言わないとか、ありえない。

 なんだか、飼い犬に裏切られた気分だった。

 帰ったら、ぼこぼこにしてやると思ったが、よく考えたら、夏目のところに行きっぱなしな彼女が、あのマンションに帰ってくることはもうないのだった。

「そんなに夏目がいいのか」
と機嫌悪く訊くと、

「いいも悪いもないですよ。
 比べようがないんですから。

 その初恋うんぬんは置いておいて。

 私、本気で好きだな、と思ったの、あの人だけなんですから。

 ……たぶん」

「自信を持て」

 あまりに情けない顔をしたので、つい、いつもの癖で、励ましたところで、桜が見えた。
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