禁断のプロポーズ
 まだ決まったわけじゃないだろ、と夏目に小突かれる。

 そうだ。
 まだ自分と夏目が兄妹だと決まったわけではない。

 確かめるのも怖いが。

 今日、智久のところに行くのに持っていっていた方のバックを掴む手に力を込めた。

 智久を拒絶すると、彼は言った。

『知り合いの鑑定研究所を紹介してやる。

 確かめてみろ。

 夏目と兄妹かどうか。

 兄妹じゃなかったら、夏目と結婚しろ、認めてやる。

 兄妹だったら、俺と結婚しろ。

 それで借金はチャラだ』

 二千万でも、二億でも、人生を売るには安すぎだ。

 いつもの笑えないジョークなのだろうと思うことにした。

 そのDNA鑑定の会社に連絡は入れておいてくれると智久は言った。

 名刺ももらった。

 でも、それを夏目に言う勇気がまだなかった。

 三、四週間くらいで結果は出るらしいが。

 そんなことを思いながら、
「……日記、盗まれたんでしょうかね?」
と呟く。

「誰かにとって、なにかまずいことが書かれたってことか」

 誰かって……誰なんだろう。

 あの日記に登場している人物。

 或いは登場していなければならないのに、登場していない人物。
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