禁断のプロポーズ
 
 


 し、しまった。

 遅くなっちゃった。

 夏目について来てもらい、会社に行ったが、予定より随分遅くなってしまった。

 荷物を取りに行くだけだから、別にいいのだが、病院へ戻るのが遅くなってしまう。

 智久さんが大激怒だわ、と未咲は思った。

 携帯はデスクの中なので、もしかしたら、何度も鳴らしているのかもしれないが、わからない。

 夏目は会社に着いた途端、自分の部署の人間と出くわして、連れていかれてしまった。

 いや、連れていかれたというか、困った部下に呼ばれたらしく、こういうとき、夏目は断れない性格なことを知っているので、

「私は大丈夫だから」
と言って行かせたのだ。

 あれ、上司だったら、逆に断ってそうだけどな、と思う。

 会長の息子でなかったら、出世出来なかったタイプだ。

 そういう意味では、隠し子であることがバレてよかったのだろう。

 上にゴマすることなく、役職につけて、自由に仕事が出来るから。

 秘書室にはまだ灯りがついていた。

 ほっとしながらも、みんなに見つかったら、面倒だな、とも思っていた。

 智久のことをあれこれ聞かれそうだからだ。

 幸い、未咲のデスクは端にある。

 そっと荷物を取って来れないものか、と開いたままの入り口から窺う。
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