禁断のプロポーズ
「おはようございます、課長」
「課長はよせ」
翌朝、洗面所で出くわした夏目に言われた。
未咲は一応、もうスーツに着替えていた。
化粧はまだしていないが。
夏目ももう着替えている。
お互い、遠慮があるからだろう。
「そうだ、課長。
昨夜、変な夢を見たんですよ。
あ、お先にどうぞ。
私、コンタクト入れようと思っただけなんで」
「コンタクトだったのか」
「まあ、一応。
だから、今、話している相手が、本当に課長なのかもよくわかりません」
と言ったら、
「この家に他の男が居たら問題だろう」
と言われた。
「昨夜、変な夢を見たんですよー」
顔を洗う夏目の背中に向け、未咲は、そう繰り返し言う。
「夜中にうとうとしていると、誰かがすぐ側の縁側を行ったり来たりしてる音がするんですよ。
ひたひた、ひたひたって。
起きて考えてみたら、夢だったのか、現実だったのか、よくわからない感じで。
あれ、課長じゃないですよね?」
莫迦か、俺じゃない、と言った夏目は、
「心配するな、ばあちゃんだろう」
と言う。
「いや、あの。
おばあさまって、お亡くなりになられてるんですよね」
「そりゃそうだろ、夜中にウロウロしてるんだから」
いや、生きて、徘徊してるのかもしれないじゃないですか、うちのおじいちゃんみたいに、と思った。